地産地消の意義について(院長先生のメモから)
遠くから運べば、環境への負担や感染の危険性が増し、一部は栄養価が極端に下がる。
1.遠くから運ぶことによる環境への負担
○生産地から食卓までの距離が長くなると、それだけ輸送エネルギーが増す
・Tim Lang (英国の消費者運動家)は、「Food Miles」という概念を提唱。
※食料の消費と供給を見直し、なるべく地域内でできた農産物を消費することで環境
負荷を減らす運動(ラング、ハインズ著「自由貿易神話への挑戦」1995、家の光協会)
・同じ献立なら、全てを輸入食材にすると、国産に比べ8倍の輸送エネルギーが必要に
なるという試算もある。
○消費地は栄養分が過多になり、地域の物質循環のバランスを崩す
・輸入した食糧と家畜の飼料を合計した窒素量は、1960年から30年間で6倍に増えた。
・この生産地の窒素が消費地に移動する。
○「ecological foot print (経済活動による生態系の踏みつけ面積)」という考え方
・ 1998年には、国土面積の14倍の農地と漁業水域を海外に依存した計算。(環境庁)
2.栄養価や食味が落ちるものがあること
◎ビタミンCなど一部のビタミンは、収穫後、急速に栄養価が落ちる
・保存方法によって低下の速度を落とせるが、畑に置いておくほうが良いのでは?
・我家では、菜っ葉は間引き野菜が一番人気。味だけでなく栄養もあるのでは?
・完熟したトマトの味は格別ですが、痛みやすい。
○収穫してすぐ食べなければ、本来の美味しさを味わえないものがある
・地元産でも、長く保存したり、遠くまで行って戻ってきたものでは話にならない。
・商品管理者は、地元で消費する分を地元に残してから遠くへ出荷する工夫を!
○美味しい条件を、味わいの深さや嗜好性の高さだけに決めないこと
頭や心で感じる部分も大きく、自分のために特定の人(家族や知人、名人)が作った
ものや、思い入れの強い場所で作られたものは、やはり美味しい。
○お腹が空いてから食べるなど、設定条件も大切
○日常的に嗜好性の強いものを食べずに、特別な日にだけ食べるという設定も大切
∵嗜好性の高さや味付けの濃さは、慣れでエスカレートしやすく病気を起こしやすい。
○飽食の時代の健康を維持するための発想
・たまに食べるから余計に楽しめるという発想をしないと市民の健康は守れない。
3.感染の危険性が増す
○感染の特徴は、他とは異なる自己増殖という危険因子
・増殖条件は、温度、湿度、栄養源、pH、競合微生物の他に、時間も重要。
・滅菌後でも、人の手を介す毎に汚染の危険性が増す。
・一旦汚染されれば、滅菌処理で競合する微生物が消えているため、汚染菌は栄養源を
使い放題で増殖する。
・単一食料を大量に集めた所に、一たび汚染源が混入すれば瞬く間に汚染が広まり危険。
・遠くに運ぶほど途中の汚染状況の把握が難しく、時間がかかる分、大事故になる
危険性は増す。
・感染の危険性を取り除くための消毒処置は、新たな健康被害の危険をはらんでいる。
○最も望ましいのは、食べる準備のできた段階で収穫した食材を速やかに調理すること
○有用微生物を増やすことで有害微生物が育ちにくくする保存法も無難
○日本のような高温多湿の国土では、昔から多くの保存方法があり、それを活用すべき
・歴史の淘汰を受けた方法は危険性が十分検討され、必要な条件が明らかになっている。
・新しい方法を探るより、既存の方法をしっかり身に付ける所から始める方が無難。
どこから始めるべきか・・・食農教育・・・
○教育
・私達は、衣住に関することと共に、食に関する基本的な知識が乏しい。
・大まかにでも最も基本的な知識を身に付けるべき。
・そのためには、幼児期からの食農教育が不可欠。
・作物がどんな環境でどう育つかを体験し、生産の喜びと苦労を知る必要がある。
・教材や手段は、最も単純で最も原始的な方法のほうが良い。
・教育では、地産地消の段階に入る前に、曲がりなりにも自給自足できるよう計画すべき。
・自身が可能な生産行為を基準に、代りに作ってもらうという発想があれば、生産者に
感謝の気持ちを持てる。
・産消や売買の基本は、本来は自分で作るべき所を代行してもらった対価の支払にある。
・自分で作るという基本的な考えがなければ、その価格が妥当か否かの判断はできない。
○生きるための基本の教育
・衣食住という生きるための基本部分は、家庭や学校、地域(社会)における教育の中で
しっかり根付かせるべき。
地域のものを食べることの意義
○飲食物や環境の体への影響
・例えば化学物質は、食物や水から摂取するものは十数%に過ぎず、多くは気中から入る。
・環境汚染が進めば、汚染された食物を避けても膨大な有害物質が水や空気から入る。
・我家の畑を無農薬にしても、周囲で多量の農薬が撒かれれば、土中濃度にほとんど
差は無くなる。
・農薬を全て否定しはしないが、極く微量の農薬でも大変な症状を出す症例はあり、
そんな患者さんも共生できる環境を求めることが、彼等を診た医師の務めだと思う。
・環境を考慮した農業の支援や良好なトレイサビリティーの推進には、自分で食材を
作り、調理する事が一番。
○愛食運動の考え方
・地元で取れる最高の素材を子ども達に食べさせ、地元への愛着を持つための手段に
して欲しい。
・今、どんなに高い収入を得て最新鋭の機器を集めたところで、将来の担い手が
育たなければ意味がない。
・また、心身の健康を損なう者が多くなれば、社会としての健全性は失われる。
・逆に、地域への愛着と情熱を持ち、健全な心身を持つ若者が多ければ、地域が発展する
素地は残せる。
○子ども達に、見える財産を残そうと欲張らず、彼等自身で築ける下地作りに手間と
資財を注ぎ込むべき。
(参考)農林水産政策研究所レビューNo.2
試論「『フード・マイレージ』の試算について」中田哲也