「電磁波過敏症に思う」 長谷川クリニック 長谷川 浩 2003/1/6
 
・電磁波過敏症について
 私は、20年近く食べ物を中心にアレルギーを診てきました。
ここ数年は化学物質過敏症を併発する患者が増えたため、化学物質過敏症も診ています。さらに、この1〜2年は電磁波にも過敏な患者が目立ち始めました。
 電磁波過敏症も、アレルギーや化学物質過敏症と同様に疑わなければ気付きません。
中でも、電磁波は視覚も嗅覚も利きませんから、過敏症を自覚すること自体に困難が大きいといえます。
 その一方で、電磁波過敏症の報道により、電磁波恐怖症(ノイローゼ)に陥る患者も現れました。
 生物電子工学という学問があるかは知りませんが、この状況を回避するには、電磁波や電磁波過敏症について冷静に知る必要があります。
電子工学や生物学、医学、心理学などの専門家が協力して、過敏症患者に作用している電磁波の実態を把握するところからスタートするしかないでしょう。
そして、電磁波過敏症を確認する診断方法や適切な治療法の確立へと進めたいのですが、それには、患者とその主治医の参加が不可欠です。
私は、このような共同研究を熱望しています。
そこで、まず私の持つ情報や知識レベル(理解度)を知って頂き協力を求めるほうが良いだろうと考えました。
断片的な感は歪めませんが、自分の知識を再整理する意味でも簡単にまとめてみます。
 
・歴史にない電磁波
 電磁波の中には、昔から馴れ親しんできたものもあります。
太陽光、地磁気(静電磁場)や宇宙線、シューマン共振などは、それなりに生物が淘汰によって適応してきましたし、マグネタイトをもつ生物はこれらの電磁波を利用してさえいます。
中には、地磁気の逆転で多くの生物が絶滅したという説もありますが、これも何千年か何十万年の単位で変わるゆっくりとした変動です。
これに対し、ここ100年の間に祖先が経験してこなかった電磁波が増え続けています。
最近の研究では、周波数、電磁波強度、波形のどれについても、生物種や個体により強く影響する範囲が異なる(窓効果)ことが明らかになっています。
つまり、条件が違えば全く異なった影響がでる可能性があるのですから、より肌理の細かい研究が要求されることになります。
 人類が、ここ百年で使い始めた主な電磁波の形態は、変動磁場(交流電気)、波形ではデジタル波、周波数では電線を流れ一般電化製品から出る50〜60ヘルツの極低周波(これも自然界には存在せず、窓効果からヒトに強く影響することが言われています)と、無線放送やレーダー通信用電波を代表とする高周波です。
 
・電磁波過敏症からみた電磁波の分類
 電磁波過敏症患者の話を聞いていると、電磁波の被害は、大きく極低周波と高周波に分け、さらに極低周波を磁場と電場に分けて考えるほうが良いようです。
 電磁波には、電場と磁場とが双子の兄弟のように存在します。片方ができれば必ずもう一方も発生します。高周波であれば、これらが細かく絡み合ってやってきますから切り離すことができません。
 しかし、極低周波では別々に対処できます。それは、波長(1サイクルの波の長さ)が、一般の家庭用電気に使われている50ヘルツで約6000km(地球の中心より更に遠い距離)と恐ろしく長いものですから、電場と磁場があたかも分離しているかのように振舞うのです。それで、影響も対処方法も別々に行うことができるわけです。
 3種類の電磁波測定器で実測できた症例がいますが、この方は極低周波の電場に強く反応するようでした。蛍光管の半分を外し夜間にブレーカーを落とすことで症状の軽減に成功しました。
別に、極低周波の磁場ないしは高周波に特異的に反応しているような例もあります。
多くは、極低周波と高周波のどちらにも反応しますが、周波数が変わると症状が違ってくると訴えます。つまり、症状で周波数帯を区別できるようなのです。
 さらに、電磁波ではないのですが、電磁波に近い性格をもつ低周波音に反応する電磁波過敏症患者がいます。
音は、電磁波に比べて伝導速度が極端に遅く伝える物質を必要としますが、電磁波のように距離を離すと急激に減衰することはありません。
その意味では電磁波より厄介です。
 また、電磁波の防護手段が少ないため、家の中での対処を何とかできても外に出られないなど、日常生活に大きな制約があります。
それでも、原因を特定できて回避できる人はまだ良いのです。
症状は主に自律神経の失調症状ですから、年齢的や性格とか精神的な疾患として片付けられてしまいがちです。不定愁訴として片付けられ、病状が進行して過敏性が増すと日常生活がどんどん困難になって行きます。
今の段階では、電磁波恐怖症(ノイローゼ)という負の面を考えても、自分が電磁波に影響を受けていないかチェックしてみるほうが良いと思います。
 電磁波過敏症の頻度がどのくらいかは不明ですが、IT先進国スウェーデンの携帯電話会社エリクソン社の技術者であったパー・セガベック氏は、ビデオ『電磁波と人類の未来』の中で、自身を含め同僚技術者の90%が電磁波過敏症になったと話しています。
悪条件に曝されれば、電磁波過敏症は個々の感受性が違うと言っても多くの人々に起こりうる疾患であり、一旦発症すれば社会生活が著しく制約されるのですから、社会全体で予防を考えるべきでしょう。
 
・電磁波過敏症以外の電磁波問題
 電磁波は、過敏症以外にも、人体に多くの悪影響を及ぼすことが危惧されています。
日常使う電化製品から出る極低周波では、平均被爆4ミリガウス以上の環境では小児白血病の危険率が2倍であったと報道されました。
これは、2002年8月24日に朝日新聞が一面でスクープした日本での調査結果ですから、記憶されている方も多いと思います。 
 高周波では、やはり携帯電話が心配です。
熱作用による白内障(眼球のレンズに白濁がおこり眼鏡やコンタクトでは補正できない視力障害となる)や効き耳側の脳腫瘍などが言われていますが、特に多い症状は頭痛です。
 この他にも、周波数の高低を問わず、胎児や自律神経、ガン、眼耳鼻や循環器系、内分泌(ホルモン)系など多方面に及ぶ障害が報告されてきました。
 また、あれば便利だが無くても済む筈なのに、気付くと携帯電話依存症ともいうべき状態(携帯電話が傍に無いと不安で仕方が無い)になっているような例をしばしば耳にします。
これは、多面的な意味で既に病的な状態だと思われます。
 しかし、WHO(世界保健機構)が電磁波は発ガンの可能性があると指摘してはいますが、この結論はまだ議論の残る段階です。
さらに詳細な調査研究と検討が必要でしょう。
 
・慎重なる回避と予防原則
 イギリスのブレア首相が「15歳以下の子供達には携帯電話を持たせるべきではない。」と言ったように、大人より10歳、10歳より5歳のほうが脳の深い所まで熱作用が及ぶというデータが出ています。
 携帯電話は便利ですし非常時に役に立つのも事実ですが、長時間高周波に曝される危険は少なくないのです。
現在、生活に密着している手段を完全に無くすのは現実的ではないとしても、せめて有害電磁波の排出量を最小限に留める製品と使い方を選ぶという共通の社会認識を持ちたいものです。
 一か八か賭ける程切羽詰った状況でないなら、たとえ利用価値が高くても危険性があれば一歩退いて徹底的な検証を試みる。
そして、これなら大丈夫だと確信できる方法が見つかるまで必要最小限に使うことを原則とする。
それが、慎重なる回避であり予防原則という考え方です。
現代の日本人には、危機意識とか危機管理といった将来への責任感が著しく欠如している、そう思うのは私だけでしょうか?
 
・受益者の自己責任では済まない
 「携帯電話の害は知っている。だから、脳腫瘍で倒れるのは自己責任として覚悟している。」という方がいます。
しかし、それだけでは済まないようなのです。愛煙家が人前でタバコを吸えば、副流煙で他人を害すことは各種のデータが物語っています。
電磁波は普通の壁なら通しますから、その害は壁を隔てれば被害者にも加害者にも見えません。その分タバコより質が悪いかも知れません。
 携帯電話での着信や発信時は頭痛がするのでわかるという方が増えています。
自分の携帯ではなく、壁を隔てたアパートの住人の携帯に反応するのです。
また、携帯の中継塔の近くの患者で、土曜の午後と日曜日に症状が悪化する人がいます。
裏付けデータなしに推論するのは気が引けますが、この地区では携帯電話のアクセスがこの時間帯に多くなっているのかも知れません。
私の患者の多くは、携帯電話の基地局や中継塔が立って間もなく発症しました。
現在、無線LANや出力が高い第3世代の携帯電話が宣伝されています。
飛び交う電磁波の容量が増せば、それだけ被害は増すでしょう。
その人が直接恩恵を受ける受益者でないなら、純粋な電磁波公害の被害者であり、利用者は自己責任などという甘い言葉で逃げることは許されないことになります。
 しかし、携帯電話を全て止めろと言っているのではありません。
弱者に配慮し害があることを前提に話を進める優しさを持ち、他の手段を活用するなどして有害電磁波の排出を最小限に留めることを提案したいのです。
 
・健全な形でIT革命を進めるために
 北海道では、電磁波問題を視野に入れた健全なビジネスチャンスを考えるグループが、2002年に2度に渡り「電磁波セミナー」を開催しました。
また、電磁波過敏症の患者会である「北海道電磁波問題を考える会」では、無線LANに対する要望や意見を署名としてまとめ国や自治体に提出したり、荻野晃也氏の講演会の開催や会報「電磁波注意報」を発行するなど患者会としての独自性を失わない活発な活動を展開して、予防や治療に何が必要かの提案と啓蒙活動を続けています。
その他、農業分野で既存の電磁波(静電磁場である地磁気)を利用する試みも活発化してきています。
これらの動きに連動する形で、電子工学をはじめ、生物学、神経学、内分泌学、免疫学などの専門家を加えた複雑系で研究を進め、健全な電磁波利用の道を切り開くことを念願しています。
そのための一助になればと考え、拙い考えをまとめた次第です。
共同研究へのご参加を是非お願いします。
 
◎ 参考文献とセミナー
1「電波は危なくないか -- 心配される人体への障害」徳丸仁著、講談社ブルーバックス、1984/4
2「図解雑学・電磁波」二間瀬敏史・麻生修著、ナツメ社、1999/7
3「磁気と生物 -- 分子レベルからのアプローチ」改訂第2版、高橋不二雄著、学会出版センター、1989/12
4「携帯電話は安全か? -- 知らないとこわい電磁波の恐怖」荻野晃也著、日本消費者連盟、1998/4
5「あなたを脅かす電磁波」増補改訂版、荻野晃也著、京都・法政出版、2001/11
6「携帯電話 -- その電磁波は安全か」ジョージ・カーロ&コーティン・シュウム著、高月園子訳、集英社、2001/11
7「誰でもわかる電磁波問題」大久保貞利著、緑風出版、2002/11
8 ビデオ「電磁波と人類の未来」
9 北海道電磁波問題を考える会主催講演会、演者:荻野晃也氏、
   「電磁波で健康傷害が起きている!?〜携帯アンテナは本当に安全なの?〜」リフレサッポロ、2002/7
10 サテライト48グループ主催、演者:綱渕輝幸氏、多田旭男氏
   「第1回電磁波セミナー」札幌市大同生命ビル大ホール、2002/8
11 北海道開発局主催、演者:中野益男氏、宮嶋望氏、多田旭男氏、 コーディネーター:山口廣治氏
  「第2回持続的農業技術セミナー『土と水から農の安全と安心を考える』」札幌市きたえーる講堂、2002/12
12 北海道電磁波問題を考える会会報「電磁波注意報」1号 & 2号、2002/5 & 8