米アレルギーと「ゆきひかり」について知って欲しいこと
    
-米アレルギー研究会からのメッセージ-


 米アレルギー研究会は、1996年から北海道立中央農業試験場と共同で、米アレルギーの実態調査、臨床試験とその生化学的解析を続けてきました。その成果は、2001年に「米アレルギーに関する臨床実態と生化学的解析」としてまとめられ、北海道農業試験会議で「指導参考事項」という高い評価を受けました。
 このパンフレットは、米アレルギーと「ゆきひかり」について正確でわかりやすい情報が欲しいという声にお答えして、以下の方々を対象に作成しました。

1 「ゆきひかり」を試したいと考えている米アレルギーの患者さんや家族の方々
2 「ゆきひかり」について問合わせを受けられる医療機関、栄養士、保健婦の方々 
3 消費者に「ゆきひかり」の正確な情報を伝えたい米小売り業者の方々
4 「ゆきひかり」の流通に関わり、小売業者に正確な情報を伝えたい卸業者の方々
5 「ゆきひかり」を生産している農家・農業団体・普及現場の方々

 *この資料は正確な情報提供により、誇大な風評や過大な期待を戒め、「ゆきひかり」を適正に活用して頂くことが目的で、特定商品である「ゆきひかり」の広告・宣伝に利用することが目的ではありません。従って、このパンフレットの部分引用・改ざんおよび営利目的に無断使用することは固くお断りします。使用を希望される方は、当研究会へご連絡下さい。

<米アレルギーと「ゆきひかり」についてのQ&A>


Q1:食べ物にアレルギーが増え始めたのはいつ頃ですか? 米アレルギーはどうでしょうか?
 食べ物アレルギーが増え始めたのは、昭和30年(1955年)代からですが、その後も年々増え続け治り難くなっています。臨床的にみると、昭和50年(1975年)代前半までは、牛乳・卵・大豆(油)の3大アレルゲン(アレルギーの原因物質)の対策で多くの人が治っていました。しかし、その後、米、小麦のアレルギーが目立ち始めて、昭和60年(1985年)以降これらの臨床研究が数多く報告されています。現在は、牛乳・卵・大豆(油)・米・小麦が5大アレルゲンと呼ばれ、穀類アレルギーの存在は、食物アレルギーを扱う医師の間で常識化しています。

Q2:食べ物アレルギーが増えたのは、食生活の変化に関係があるでしょうか?
 食べ物アレルギーと日本人の食生活の変化は無縁ではありません。厚生省による国民栄養調査を見ると、1950年以降では、食生活の変化を反映して牛乳 卵 サラダ油が明らかに増えており(図1)、これに呼応するように3大食べ物アレルギーが急増しました。しかし、この中で「米」だけはむしろ減少していますが、この頃を境に米アレルギーが急増するという矛盾した動きになっています。


Q3:では、どうして米アレルギーが増えたのですか?
 原因は種々あると思います。一つには、甘い物やアルコール系の嗜好品を取り過ぎが考えられます。その根拠に、イーストコネクションと呼ばれる概念があります。少し複雑ですが説明してみましょう(図2)


 ヒトの消化管には、カンジダというカビが誰にでも常在しています。このカンジダは、通常ビタミンB群などを作って私達に供給してくれています。しかし、増え過ぎると毒素まで出して、人体に様々な病気や症状を引き起こすとしています。
 一方、カンジダが異常に増えると腸の表面(腸管粘膜)が荒れてきます。腸管粘膜がただれると、そこから荒っぽい形(大きな分子)のままアレルゲン(アレルギーの原因物質)が吸収されるため、食べ物アレルギーを起こしやすくなります。さらに、このカンジダ自体にもアレルギーが起きてしまいます。一旦アレルゲンになると、交叉反応といって、似たものにアレルギーが起きることがあり、イーストは、カンジダとはとても近い親戚ですから、一緒にアレルゲンになることが多く、パンを食べても症状が出るようになります。
 実は、このカンジダが特に好むのは、砂糖・果物とアルコール(便宜上これらを合わせて「甘いもの」と総称します)です。そこで、これら一連の問題を予防するには、この「甘いもの」を抑えることがポイントになります。
 1992年の第29回日本小児アレルギー学会で 後木は、この理論に従い「甘いもの」とイーストを極力減らすことで、米アレルギーの治り(耐性)が半年から一年 早まることを報告しました(表1)。(耐性:それまで食べるとアレルギー症状を出した人が、以後その食品を食べても反応しなくなること) 


 このことから、主に糖質系の嗜好品を摂り過ぎていることが、お腹のカビを介して、米アレルギーを悪化させていることが考えられます。角度を変えて見た証拠として、カンジダアレルギーでは穀物アレルギーが伴い易いことを、松田と三浦が報告しています。
 甘いものの代表は砂糖ですが、戦後 日本人の摂取量は爆発的に増えています。そこで、このイーストコネクションの考え方から、米の摂取量が減ったのに米アレルギーが増えてきた理由が「甘いもの」を摂り過ぎたためではないかと考えたのです。


Q4:米アレルギーについての研究はどこまで進んでいるのですか?
 1988年(昭和63年)頃から、米アレルギーを起こす蛋白の研究がたくさん行われました。その結果、米蛋白のうちグロブリン(食塩水で溶出される蛋白)に主要抗原があることが判り、これを酵素分解したファインライス(特定保健用食品として)や高圧処理と洗浄で米蛋白(特にグロブリン)を減らしたAカット米が市販されました。一方、米表面を白米以上に削った高度精白米(削り米、丸米、酒米、低アレルギー米の名称もある)は、有効性が早くから臨床報告されていましたが、長い間、理論的な根拠が明らかにされていませんでした。1994年、柳原は、米アレルギー患者の血清を使い、原因となるアレルゲン(アレルギーの原因物質)が米の表層に集中することを明らかにして理論付けました(図3)。

 これまでの研究は、米に限らず、アレルギーの原因を蛋白だけに求めていました。
 しかし、1992年以降、多糖類にもアレルゲン(アレルギーの原因物質)として反応する例が報告されています。アレルゲンとして蛋白の中心的な役割は変わりませんが、このように、蛋白以外のアレルゲンが注目され始めています。これまでに行った私達の研究でも、米蛋白だけでは説明できないデータがたくさん出てきました。
 また、現在は、食べて間もなく症状を現すハッキリ型(即時型)のタイプの研究が主です。しかし、米アレルギーの場合、臨床的な事実として、何日か遅れて症状が出てくる隠れ型(覆面型または遅延型)のタイプが圧倒的に多いのです。
 そこで、私達は、蛋白以外の米アレルゲンと遅延型タイプの米アレルギーについて研究を進めています。

Q5:米アレルギーの治療法について教えてください
 食べ物アレルギーの一般的な治療法からすると、薬剤の利用やスキンケアに加えて、米を止めることになります。しかし、米は日本人の主食で完全な除去が難しいことと、代替えとした雑穀類に早くから反応し出す場合もよく見られました。そのため、工業的処理により米の抗原を除去した各種の低アレルゲン米や、高度精白米などの特殊処理した米が利用されるようになりました。しかし、通常の米に比べて価格が高く、長期間の使用では患者負担が大きくなります。
 そこで、特殊処理米を利用する前に、Q3で説明したイーストコネクションに基づいた食事指導をしています。つまり、米アレルギーを疑った時には、第一段階として「甘いもの」をできるだけ控えてもらっています。また、米の品種を変えて良くなる方が多いことも判りましたので、「甘いもの」制限だけで十分な効果が出なければ、米の品種変更を第2段階として付け加えています。品種変更については次のQ6で詳しく説明します。それでも効果がない場合に初めて、特殊処理米や米の除去をするというのが、私達の方法です(図4)。


Q6:北海道米「ゆきひかり」が米アレルギーに効果があるというのは本当ですか?
 米アレルギー患者さんに対する調査と臨床試験では、米を「ゆきひかり」に変更した段階で、多くの患者さんの症状に改善が見られました。しかし全ての患者さんに効果があったわけではなく、中には悪化する人もいました。
 図5は、米アレルギー患者さんの米を「ゆきひかり」に変更してもらい、元の品種のときに比べて症状がどのように変化したかを診た結果です。

 試験は当研究会所属の3医療機関で実施しました。Q5の図に示したような治療ステップに従い、第1ステップの「甘いもの制限」によっても症状改善のみられない米アレルギー患者さんに対して、現在食べている米を「ゆきひかり」に変更してもらって症状の変化を判定しました。その結果、約68%(26/38人)の人は症状が軽くなりました。しかし、症状が悪化した人が1名(試験はすぐ中止しました)、症状に変化がみられなかった人も11名いました。
 このように、「ゆきひかり」が米アレルギー症状に効果が認められたのは、治療の一環として甘いものを制限した上での結果です。その場合でも悪化したり効果が認められない人がいました。そこで、米アレルギーに対する効果を期待して「ゆきひかり」を使う場合には、信頼できる医師と相談しながら行うようお願いしてします。

Q7:「ゆきひかり」で効果があるのはどんな人ですか?
 どういう人に効果があり、どういう人に効果がないか確実に判定する方法はありません。ただ、私達が行ってきた試験結果では、ハッキリ型(即時型)の血液検査値(コメIgE-RAST検査)に傾向がありました。症例数が少ないですが、参考までにお話しておきます。

 図6は、臨床試験で「ゆきひかり」で効果があった人(有効+著効)と効果が認められなかった人(悪化+無効)に分けて、それぞれの血液検査値を比較したものです。「ゆきひかり」で効果があった患者さんはコメIgE-RAST値が低く、逆に、効果がない患者さんは高い傾向がありました。(コメIgE-RAST検査のクラスは、陰性0、疑陽性・、陽性・以上で、値が大きくなるほど反応が強いと判定します。)
 そこで、これを応用して血液検査値から「ゆきひかり」に品種を変更した場合、効果があるか無いかの目安を知るために分類した図7を作成しました。
 図から、ハッキリ型(即時型)の血液検査値で反応が低くなるに従い「ゆきひかり」の有効率が高くなっていました。血液検査値が低いクラスの患者さんでも品種を変えてみる価値はあります。ただし、症例数が少ない試験での結果であり、米アレルギーと診断された方に限った場合の話ですから、コメIgE-RASTが陰性の人が皆んな「ゆきひかり」で改善する分けではありません。誤解のないようにお願いします。

Q8:「ゆきひかり」には、アレルギーの原因になる蛋白質が無いのですか?
「ゆきひかり」にも他の品種と同じくらいアレルゲン(アレルギーの原因物質)になる蛋白質が含まれています。図7は、米の中に含まれるアレルゲン蛋白質を、品種毎に比較して測定した結果です。棒グラフの高さは、各米に含まれるアレルゲン蛋白質の量を示し、バーの幅は同じ品種内でのばらつきを示しています。



 この分析から「ゆきひかり」のアレルゲン蛋白質は、現在流通している他の品種と同じくらい含まれていることがわかりました。これは、「ゆきひかり」が米アレルギーに効果があることと一見矛盾しますが、私達は次のように考えています。
 一般に食物アレルギーは、各食物に含まれるアレルゲン蛋白質が、それに反応する患者さんの抗体(特異IgE抗体)と結びついて発症すると考えられています。しかし、米アレルギーの場合には、これ以外のしくみも働いているだろうと考えています。
 その理由として、米を食べると明らかにアレルギーを発症する患者さんの中には、米の蛋白質と反応する抗体を持たない人(ハッキリ型の血液検査、コメ特異IgE抗体が陰性の人)が大変多くいます。逆に、血液検査で米に対する抗体をたくさん持っている(コメ特異IgE抗体、強陽性)のに、平気でお米を食べられる人も少なくないのです。つまり、米アレルギー患者さんの中には、米蛋白質以外の要因に反応する人がいそうだということです。「ゆきひかり」で効果が出るのはこのようなタイプの患者さんではないかと考えています。このことについて研究会で現在検討を重ねています。早く具体的な成果を出して皆様にお知らせしたいと思っています。ご期待下さい。

Q9:「ゆきひかり」はどの様なお米ですか?
 「ゆきひかり」は昭和59年に北海道立中央農業試験場で育成され(図9)、平成2年には北海道で約7万ha作付(全国第5位の作付け面積)された、かつての北海道米のエースです(図10)。最近の良食味品種に比べるとやや硬く、粘りが少ないご飯です。

 現在は「きらら397」や「ほしのゆめ」といった良食味新品種の登場で、作付けはわずかです(平成12年度で約500ha:玄米換算2,500t)。しかし、調査により「ゆきひかり」を必要としているアレルギー患者さんが多くいることが明らかとなったため、北海道農政部では需要に応じて種子の更新を続ける方針です。

Q10:「ゆきひかり」は薬のように考えて良いのですか?
 「ゆきひかり」は薬(医薬品、医薬部外品、特定保健用食品等)ではありません、一般の「うるち米」です。ですから、何らかの医学的効能を表示して販売することはできません。また、紛らわしい表示も禁物です。
 これは余談ですが、アレルギーは個人差が特徴の病気です。種々な原因が積み重なり影響しあって症状が出始めこじれて行きます。(逆に、大きな要因を取り除けば、悪循環を断ち改善への好機につながるのですが。)米アレルギーは、アレルギーが重症化してから現れ、良い方向に向かうと最も早く治っていきます。出始めが遅く最も早く治るのですから、米はアレルギーを起こしにくい食品と云えます。つまり、アレルギーから見ると、米は日本人に適した食物です。米アレルギーの研究により、米は我々が避けるべき食物ではなく、飽食による食物アレルギーの重症化が米にまで及んできたことを深刻な警鐘と考えるに至っています。薬に頼る前に日常生活のチェックが大切ですし、アレルギーを起こさずに済む社会を築くことが更に大切ではないかと考えますが、いかがでしょうか?

Q11:米アレルギーの治療に「ゆきひかり」を使いたいのですが、特に注意することを教えて下さい。
 多くの人に有効な「ゆきひかり」ですが、少数ながら悪化したり他品種の方が良い例もありました。このように、米品種にもアレルギーの特徴である個人差があります。他の食品も同じですが、「ゆきひかり」を治療目的に用いる時には、信頼できる医師との相談は勿論ですが、「試してみる」という心構えでお使いください。
 「ゆきひかり」がアレルギーに悪い筈はないと思い込み、好転反応などの甘言で、合わない人に「ゆきひかり」を食べさせ続けることは禁物です。このような勧め方は何としても避けて頂きたいのです。十分ご注意ください。尚、そのような業者がいましたら、研究会までご連絡頂ければ幸いです。

Q12:これから、どんな研究をするつもりですか?
 今後は、裏付けとなる生化学的な解析で米アレルギーのメカニズムを検討したいですし、患者さん毎に反応しにくい米を調べる検索方法ができればと考えています。
 臨床的に、蛋白の面でまだ検証されていない点は 遅延型(隠れ型または覆面型)アレルギーです。具体的な検査方法としては、リンパ球幼若化試験やパッチテストという検査方法があります。この部分の研究がたいへん遅れていますので、私達がしなければならないと思ってます。
  更に、蛋白以外のアレルゲンや、その他の要因 特に 糖の構造や代謝とか消化性まで対象を広げて、品種による違いの生化学的な検討を進めて行きたいと考えています。

Q13:米アレルギーを起こす原因として、米アレルゲン以外に何か言われていることはありませんか?
 少し難しい話になりますが、米アレルギー研究の第一人者、横浜市立大学皮膚科の池澤医師の考えを紹介します。  彼は、穀物アレルギーを伴う難治性アトピー性皮膚炎を発症させる主な要因として(1)生活環境中のダニ・カビ(adjuvantとして) (2)病巣感染巣皮膚の細菌(adjuvantとして) (3)交差反応(イネ科花粉アレルゲン) (4)皮膚炎症病変に放出される大量のサイトカイン(immunomodulatorとして) (5)化学物質(adjuvantあるいは抗原性増強物質として) (6)ストレスの増加(immunomodulatorとして) (7)高カロリー高脂肪の過栄養と必須ビタミン ミネラル不足(immunomodulatorとして) (8)外用ステロイドの乱用(immunomodulatorとして)などをあげています。

注1;adjuvant:免疫反応(アレルギー反応を含む)自体を促進する触媒のように働く物質
注2;交差反応:類似の抗原決定基のために、2種以上の抗原と反応すること
注3;サイトカイン:活性化した免疫関連細胞が放出する生物活性物質(但し、抗体を含まない)
注4;immunomodulator:免疫反応系全体を揺さぶり(修飾し)、アレルギー反応を促進する物質
注5;(5)の化学物質には、農薬や化学肥料を含むと思われます。
 私達は、これらの面も参考に今後の研究を発展させて行きたいと考えています。