北のピノキオ会 講演会 発表要旨       2002.2.10 かでる2.7
 
 今日のテーマは、「集団生活に対するアレルギー対策」です。ですから、ある程度お子さんの原因がわかっていることを前提にお話します。アレルギーの特徴は個人差ですし、子供達の性格も千差万別です。個々の具体的なことは、この後の座談会で討論することにして、その時のたたき台になるように一般的な話をこれからしたいと思います。
 
親の心構え
 さて、新しい環境へ子供を入れるのは、それだけで不安なものです。増して、アレルギーがありますと、時々みんなと別行動することになって、「いじめられないか?」とか「いじけないか?」とか、親としては心配ですね。
 私にも3人子供がいまして、長男に結構なアレルギーがあります。原因は、卵・とり肉・そば・海老・ 小麦・油・甘いもの、米も「きらら」が駄目で「ゆきひかり」なら大丈夫といった具合でした。食べ物以外の原因でも、ダニ・猫・花粉と幅広くありましたし、症状も、喘息・アトピー・目と鼻のアレルギー・アレルギー性の自律神経失調と多彩でした。
 そんな訳で、息子を保育園や小学校に入れる時には、上に挙げた以外にも、先生に人一倍迷惑をかけるのではないかと心配でしたし、何か人質に取られるような変な不安を感じました。しかし、今考えますと、先生の方がもっと不安だったのではないでしょうか。親の方は、だいたいどんな状態になるかイメージできますけれど、先生の方はそれが無いわけです。他にたくさん子供達を見ながら、万一激しい症状が起きることを考えたら、正直、関わりたくなくて当然だろうと思います。
 群馬では小児科の大学教授が食べ物アレルギーを診断しましたから、既に昭和40年代には給食を食べなくても良いことになったようです。しかし、給食は全部食べ終わるまで帰さない先生がいた時期ですから、弁当を職員室で食べさせるとか、家に帰って食べさせるとかの対応があったそうです。先生としては、地域の健康面の最高権威に逆らう訳にはいかないし、それまでと首尾一貫した説明もしたかったでしょうからね。それに、そうすれば何かの間違いでクラスメートの牛乳が飛んでくるようなことは避けられることになります。
 しかし、子供の気持ちになれば耐えられない話です。職員室で一人で食べる弁当は食べた気がしないでしょうね。私が小学校で一番楽しかったのは、昼食後の休み時間に運動場で汗をかいて遊んだことでしたからね。残念ながら最近でも、食べ物アレルギーに理解がなく、弁当持ちを希望したら、一人だけ我がままは許されないですと言った校長先生がいます。その話を聞いて、私も開いた口が塞がりませんでした。私の子供が卒業したばかりの小学校なのですが、変わったのはその校長先生だけなんです。
 でも、そう言われたからといって、蕎麦で亡くなった事件以来、文部省から出された弁当や給食については親の意見に配慮しなさいという通達を盾に対応を迫っても、あまり良い解決方法にならないと思います。まず必要なのは、先生と親とが信頼しあい、子供達にとって何が良いのか前向きに考える雰囲気を作ることではないでしょうか?
 確かに、食事を一緒にすれば、色々なトラブルが起こるでしょう。牛乳アレルギーの子が飛んできた牛乳で辛い目に遭うかも知れません。しかし、そんな痛みを理解することで互いに助け合うために良い機会ができるんです。その子も、どういうことが危ないか知ることになりますし、たくさん子供達がいるのですから、万一の時でも発見が早くなります。
 そこで子供達みんなにメリットがあるように方法を考えていくのが良いと思いますが、そのためには、まず、正確な情報を提供して、お子さんをよく理解してもらうことです。
お子さんには、親が一番責任があるわけですから、親の意見は尊重されます。しかし、説明してもなかなか理解して貰えなくて憤慨されるご両親のお話しを聞くことがあり、そのお気持ちもよくわかります。でも、親として、子育てを手伝ってもらうんだという謙虚な気持ちを忘れずに説得し続けていただきたいと思います。
 もう一つ忘れていけないのは、お子さんは社会人の卵ですから、社会から大切な預かりものをしているんだという発想です。最近、児童虐待の話題をよく聞きますが、自分の子でも好き勝手にできるわけではないですよね。説明不足になったり相手の話をよく聞かないと、そんな風に誤解されてしまうことがありますから、注意してください。偏見が一度できると、修復するのに大変なエネルギーが必要ですからね。
 だらだらと前置きが長くなりましたが、要するに、まず信頼関係を築く心構えが大切だということです。
 さて、心構えはこのくらいにして、本論に移ります。レジメに沿ってお話を進めて行きますが、まず、今日のお話に関連する基本的なことをお話します。その後、大体、1歳前の赤ちゃんから幼児期、小学生へと年齢を段々上げて話を進めて行きます。そして、最後に、集団生活に限らず、今、私が考えていることをまとめてお話ししてみようと思っています。
 
1、基本とした考え方
○食べ物アレルギー関連
・個人差が大きい色々な条件が積み重なり症状が出てくる
 アレルギーの原因をアレルゲンと言いますが、このアレルゲンの種類も反応の強さも人によりそれぞれ違います。大抵の場合、アレルゲンを含む幾つかの要因が積み重なり、その人の許容量を越えると症状が出始めますが、その要因には、心身の状態など色々な条件が含まれます。
 
・精神因子も重要。プラス思考できるように
 つまり、前向きに良い方に考える方が、アレルギーにも良いことなのです。
 
・大きくなるに従い、本来の食べ物へのアレルギーは軽くなるが、他の子の食べ物や嗜好品への興味も増す
 ここで気を付けたいのは、小さい時に強く反応した物は、普段大丈夫でも、体調を崩した時や生など強い形で大量に入った時に、出方や出場所が変っても症状を出して来ることがあることです。逆に言うと、小さい時に合わないと判っていれば、大きくなってからの健康管理のヒントになるということです。
 
 ・一度覚えた嗜好品の味は忘れない。目前にあって食べられないのはストレス。嗜好性はエスカレートする
 嗜好品は、依存症(慢性中毒)になりやすいんですね。ニコチン・アルコール・カフェイン中毒はご存知でしょうが、甘い物中毒というのもあります。疲れてくると甘いものが無性に欲しくなるのは、甘いもの中毒の禁断症状かもしれません。中毒はひどくなると、それが無い生活なんか考えられなくなるそうです。甘いものは軽い方ですから、普段控えて、たまに楽しむくらいの対策で良いのですが、それでも結構難しいんです。どこへ行っても目の前にあって簡単に手に入るわけですから、中毒にならないためには、たまにしか目の前に出てこないという状況を作るしかないでしょうね。昔のお祭りや大きなイベントくらいの頻度にですね。
 
・再発の危険条件は、体調不良、反応の強い食品、大量または続けて食べること、化学物質、酸化油、嗜好品の過食
 アメリカのランドルフは、アレルゲンと化学物質との結合でも反応しやすくなると言っています。また、名古屋大農学部の中村元教授は、小児アレルギー学会の特別講演で、酸化した油から出るマロンジアルデヒドが、アレルギー反応を数百倍まで強めることを発表しています。何度も使ったり古くなった油が反応を強めることは、臨床の場でも実感します。大豆アレルギーの多くは、豆腐よりも大豆油で強く反応します。甘いものやアルコールのような嗜好品は、お腹のカビを増やすことでもアレルギーを悪くします。
 
・精神的に最も辛いのは再除去。解除は慎重に
 
・親は、入学前まで管理者に、入学後はアドバイザーに。巣立つまでに自分で健康管理できることを目標に
 
・アレルギーは警鐘(危険信号を発している)。予防に優る治療法はない
 集団生活では遠慮や緊張があって除去食で頑張れても、家族が目の前で自分の食べられないものを食べるのではうまくいきません。親と子の体質は似るものですし、症状は違っても、同じ物が気づかずにジワジワ進む重い病気の原因になっていたりします。子供は辛い思いをして、家族に今のままでじゃ危ないよと信号を出しているのかも知れません。予防のつもりで子供の食事に付き合って欲しいと思います。
 
○集団生活関連
 次の二つは、メリットのある面です。集団生活の良い所は他にもたくさんありますが。
 
・他の子供達と行動するだけで 日々新鮮な発見ができ、たくさん身体を動かす場所や時間が与えられる
 一緒に遊べない時期の小さな子供でも、傍に子供がいることを喜ぶことがほとんどです。他の子供達の行動を見ているだけでも、日々新しい発見をしているように感じます。
 また、たくさん身体を動かす場所や時間が与えられるのも大きなメリットです。
 
・要求のレベルが親より低く価値観が安定しており、褒められることで進んで物事をやるようになり向上できる
 親は欲張りで厳しくなりがちですね。
 
 次の二つはデメリットの方です。
・予想できない事故や事件と人間関係の摩擦は子供の間でもつきもの
 
・流行する感染症を次々にもらいやすい
 もうひとつのデメリットとしては、感染症をもらいやすいことです。園に通い始めてしばらくは風邪をひきやすい状態が続くかもしれません。お母さんが仕事に行き始めたのに休んでばかりで大変ということは、働きながら子育てをした経験のある方ならよくご存じです。初めに、そんなことになるかもしれませんが宜しくと、会社の人や預かってくれるお祖母ちゃんにお願いしておいてください。熱が出てると、園には行けないですから。
 
 私が一番大切だと思うのは、次です。
・信頼関係を築くことが大切(親対先生、親対子供、子供対先生、子供対他の子供達など)
 
 次の二つはセットで考えましょう。
・受け入れ側の事情を知り、感情にも配慮が必要。心配は親より先生のほうが大きいかも
 
・正確な情報を与え、建設的な提案をして相談する。子育ての協力をしてもらうという謙虚な気持ちになって、協力を!
 先生も不安です。精神的にも物理的にも先生方に余裕を持ってもらうために、時間的な余裕があれば、学校行事への参加や役員としての活動などのお手伝いしては如何でしょうか。
 
・最終的な結末は、親が引き受けるしかない。その分、親の意見は尊重される!
 
・説得できる事情がなければ、特例は認められない
 集団生活では、除去食など特別な扱いを望む場合、何故それが必要なのか説得力のある理由が必要です。個々人が妥協せず自分勝手に希望を通そうとすれば、集団生活に必要な秩序が失われてしまうからです。除去食にしても、症状が出なければ、基本的には認められないでしょう。予防のためにということを求めるなら、可能な限り親の感性に近い方針の施設を選ぶ努力が必要でしょうし、それ以上を求めるなら、社会運動を進めることになるでしょう。
 
○その他
・親はコーディネーターとしての責任はあるが、子供は社会からの大切な預かりものと考えて
 
2、園を選ぶ(信頼関係を築きやすい園をリサーチする)
 --- アレルギーの治療と予防を考えて選ぶ時のポイント ---
○園の方針
(1)アレルギーに理解があり対応する意思があること。できれば、経験が豊富な所
 乳児、つまり1才未満のお子さんが保育園に入園する場合、アレルギーの原因を全部確認できているケースはほとんどありません。ですから、食べ物アレルギーの経験豊かな保育園を探すことです。原因を見つけだすことも併せて、一緒に育ててもらうしかありません。保育園選びを間違うとえらいことになります。でも、食べ物アレルギーに精通した保育園はどこも大変人気がありますから、空きがないですね。許されるなら、育児休暇をできるだけ延ばすことでしょうか?
 入ってからですと、離乳食を遅めに進めるのもひとつの方法です。離乳食を進める時は、お子さんの意欲を一番重視しますが、慎重に進めてください。相性の良いミルクがあるなら、一段階くらい前の離乳食を基準にする方が無難です。この段階では、特に、園と親との信頼と協力関係が欠かせません。
 1歳を超えた幼児期でも、園選びは大切です。公立で建て前は一緒でも、園長先生の方針で随分違うようです。私立なら、園の方針の違いは更に大きいでしょう。通いやすいなど利便性も大切ですが、アレルギーを含めて、できるだけお子さんにフィットした園を選んで頂きたいと思います。
 幼児の方が、乳児より手がかからなくなります。食べられる範囲も広がってきます。しかし、その分、先生も多人数を受け持つことになり、特別に相手をしてくださる余裕も減ります。
 また、他のお子さんの食べ物にも興味を持ってきますから、その対応が必要になります。ここでも、園の経験や方針で対応が大きく変わります。
 
(2)個人差とコミュニケーションを大切にし、個々の良い所を引き出す所
 つまり、アレルギーにも理解を持つ感性があるということです。
 
(3)体をたくさん動かして遊ばせてくれる所
 体を動かすと、糖分をエネルギーにして燃やしますから、その分、甘いものの許容範囲を広げられます。園で出る少しくらいの糖分は解決できるわけです。
 
○食べ物への考え方
(1)食べるイベントが少なく、給食とおやつに嗜好品が少ない所、食材の化学物質等にこだわり手作りを心がける所
 
(2)余裕があれば、弁当持参の園のほうが良い
○環境因子への配慮
 空気のほうですね。
 
(1)カーペットやじゅうたんなどダニの温床がなく、動物を、特に園の建物の中に飼っていない所
 
(2)建物や日用品(煙草・洗剤など)の化学物質に注意し、換気が良く、周りの環境(排気ガス、農薬、ゴミ消却場)にも配慮した所
 小学校も校区以外に越境して入学できる所も出てきたものの、まだ少数です。しかし、幼稚園や保育園の段階ならアレルギーに理解ある園を探して入れることができます。よくリサーチして下さい。
 そうは言っても、長い距離の移動は、親だけでなく子供さんにも負担になります。それを念頭に置いても、都会なら結構選べるものです。但し、アレルギーをしっかり理解し対応してくれる園は、空きが少ないかも知れません。お子さんが重症であれば早めにアプローチしてください。
 
3、園や学校が決まれば、最初が肝心(アレルギーを含め、お子さんについての説明と相談が大事です)
(1)提出する材料(たたき台)は、親と主治医で作成:毎年更新した方が良い
 これまでの経過やエピソードとアレルゲンを書面で学校に提出しておくと、後で確認してもらえるので有効です。最初に簡単なまとめと重要事項を書いて、後に詳しく書くと親切です。先生が変わる時には引継ぎはあるでしょうが、一度に全生徒のことを把握できる先生は稀でしょう。少なくとも私には無理です。その時には必ず再提出してください。一年一年、状況が変わることもあります。できれば、面倒でもパソコンに入力しておいて、新しい部分を付け足せば良いくらいにしておけば、後でたいへん楽です。
 
(2)園や学校の受け入れ体制や実情を聞く(園の場合は、決める前にリサーチ)
 
(3)具体的な相談体制を築く(救急時の対応、状況に応じて変更を相談)
 
(4)余裕があればですが、より広いコミュニケーションの場に参加する;PTAなどで積極的に園や学校に関わる
 
(5)アナフィラキシーなど急を要する危険が想定されれば、主治医を通じて学校近くの入院できる小児科と事前相談をする
 危険が想定される場合は、予め主治医に手紙を書いてもらい、受診して相談しておく。また、問題がなくても、原則的に大きな休み毎に受診しておく。(どの程度の頻度で受診すべきかは、医師と相談しておくと良い)
 アナフィラキシー、気管支喘息発作は重症化すると生命の危険を伴う場合がありますので、救急時に治療していただける近所の医療機関は必要です。
 
4.想定される問題と対策
(1) 弁当などで本人が「いじける」or弁当を廻りのクラスメートが「羨ましがる」
−>孤立やいじめの対象になる?
 一人だけ特別という違和感を解消:最初の給食の時、先生からクラスメートに説明(我がままじゃないことを)
 例えば、「○○ちゃんは本当はみんなと一緒に給食を食べたいんだけど、食べると痒くなったりゼーゼーしたりするんです。だから食べないで頑張っているんですよ。みんなも協力してあげてね!」
 
 貰えないけど、あげられる−>弁当の一部を食べてもらえば、同じ物が食べられる
余裕があり許されるなら、みんなが食べられる差し入れもひとつの方法(食中毒の心配がない物で、事前に先生と相談)
 
−>劣等感を持つ子なら、先生に食べてもらい「皆んなと同じで美味しいね」と言ってもらう
 子供達は素直ですから、最初にきちんと働きかけると大半の問題は解決します。
 弁当持ちで給食に臨む場合なら、最初の給食の時に「○○ちゃんは本当はみんなと一緒に給食を食べたいんだけど、食べると痒くなったりゼーゼーしたりするんです。だから食べないで頑張っているんですよ。みんなも応援してあげてね!」先生からこんな説明があると、子供達は「頑張っているやつなんだ」と思います。反対に職員室とか他の所で食べさせたり隠したりすると、「あの子は悪い子」とは思わないまでも、「自分たちとは待遇が違う」と差別意識を持つ子もでてきます。周囲の大人の意見も様々ですが、「あんな食事は良くないわね」と誰かが囁けば、「あの子は悪い子かも」と心理状態が変ってしまう子もいます。小さいうちは大人の一言が大きいのです。一番先に先生に、できればクラスのお母さん達にも理解してもらのが良いでしょう。
 その他にも、「先生にも少し分けてくれる」と言ってもらって食べてもらい、「みんなと同じだね。美味しいよ。」なんて声をかけてもらえば、他の子供達だけじゃなく本人の受け入れも円滑になります。本当は、お弁当に興味を持ったお友達にも食べてもらうと、そんなに変わった物を食べているのではないことを直に理解してもらえますから一番なのです。しかし、先生としては、それに代わる食べ物が無いですから、弁当が減ればお腹が空いて可哀想だと考えるでしょう。それで、「もらったら駄目」と言っちゃうことがあります。そうなると、どちらの子にも気まずい差別感が生まれます。ただ、食中毒も心配でしょうから、事前に先生と相談しておいて下さい。
 そこまでできなくても、子供達への対処法や説明方法を相談しておくだけでも随分違います。手段はともかく、お子さんがクラスのお友達にうち解けやすいように、一人だけ特別という違和感を解消できれば良いわけです。
 でも、そのために給食の内容に似せたコピーを続けることには賛成できません。これまで見てきて感じるのですが、お母さんの負担が大き過ぎます。ある程度、本人の希望が入れられる内容にしてでも、本人と交渉して多少の違いを納得してもらう方が長続きします。この時、意見を聞いてよく話し合うことです。
 私は、このことが他の子供達にとっても良い社会勉強になるように思います。個人差と言いますか、お互いの長所や短所を認め合って補い合う感覚を養う良いチャンスだと思うのです。
 
(2)体調が悪いときや頻度が増したときに症状が出現しやすい
 −>部分給食(給食で食べられる物は食べて、足りない分だけ持参する)なら調節できる。
 身体にとっては弁当だけの方が良いですが、給食を食べたいという欲求が強ければ、部分給食という方法もあります。部分給食というのは、給食の中で食べられる物は食べて、足りない部分を弁当として持って行く方法です。その他にも、症状が軽い割にストレスばかり強くなるようであれば、抗アレルギー剤を使いながら給食を一部食べるとか、いろいろ方法はあります。その子の症状や性格、気持ちを十分考えながら良い方法を探っていくしかありません。
 それまでは食べれば症状が出ていたものでも、治療が進めば徐々に症状を出さなくなる範囲が広がっていきます。段々と除去を解除していくことになりますが、方法には十分注意して下さい。解除してすんなり悪化しなければ良いのですが、悪化して、もう一度除去し直すときのストレスは大変なものです。最初は家で試して、大丈夫なら学校やイベントで試しを繰り返すとか、週のうち何回かにするなど、食べる時と止めておく時のメリハリを付けておく方が無難です。
 逆に、少し乱暴ですが、小学生なら自分の体調を考えながらその日の食べる内容を決めるという方法もあります。最初は詳しいメニューを見ながらアドバイスしますが、徐々に本人に任せます。そして、その結果がどうなったか真実を聞きたいなら、失敗や試したことを言えなくても叱らないことです。この場合のポイントは言いやすい雰囲気です。何れにしても、給食で除去を解除する時には、よく相談しながら進めることです。解除の分、家では余計に気を付ける必要がありますし、季節的な配慮も忘れないでください。とにかく、解除する前によく話し合って納得した上で進めてください。
 
(3)差し入れなどで、自分だけ何も当たらない
 −>他人の差し入れに備えて、事前に預かってもらう(定期的に交換する)
 
(4)後ろ向きな言葉がけ「かわいそう」は、心を暗くする
 −>前向きな言葉がけ「えらいね、頑張ってるね」と言って、プラス思考できる雰囲気を!
 言葉を選んで欲しいということです。よく「かわいそうだね」と「えらいね」を、悪意は無いのですが同じに考えて使う人がいます。同じような言葉でも、受け取る方には雲泥の差です。「頑張っているね、偉いね」と言われたら力が湧いてきますが、「かわいそう」と言われたら涙が出ます。言葉は前向きのものにしましょう。
 まあ、性格の問題もありますが、美味しそうに見えても嫉妬心から「うまくなさそう!」と言われて、「ああ、美味しくないものを食べてるんだなあ」と委縮したり、「おいしそう!いいなあ」と言われて、何か引け目を感じてしまう繊細な子もいます。その子その子に合った対応が必要なのです。
 
5、小学生になったら、親はアドバイザーに(注意すべきこと)
 おしゃまな子、おっとりした子と個人差はありますが、小学生ともなると結構しっかりした理屈やもっともな言い分も考えつきますし、全てを親が管理するのは難しくなります。それで、親はアドバイザーにならざるを得なくなるわけです。その時の注意点をいくつか挙げて見ましょう。
 
(1)親に求められのは、本人にたくさんの小さな失敗から学ばせる方向付け(考え方です)
 
(2)不快な症状が嫌だから食べないと自分で選択する(「親が嫌がるから食べない」という発想から脱却する)
 小さい子でも、試したい(食べてみたい)気持ちがあります。それをしない理由は、小さい頃なら親が嫌がるからですが、小学生になると症状を悪くしたくないという自分自身の中での葛藤になります。この時期、親に求められのは、本人に失敗から学ばせようとする方向付けでしょう。親が判断を押し付けずに、本人と同じ目線でよく相談しながら食事療法を進めることです。それが、望ましい家族関係を築く近道になります。
 
(3)干渉し過ぎたり管理し過ぎて、却って精神的な苦痛を募らせないように
 親は、私もですが、子供の肉体的な苦痛を少しでも減らしてやりたいと思うもののようです。そのために、干渉し過ぎたり管理し過ぎて、却って精神的な苦痛を募らせてしまうことがあります。一度、立場をお子さんに置き換えてみてください。少し意見を聞かれて大人扱いされたお子さんは、それだけで、少し大人になれるかも知れません。
 
(4)アナフィラキシーのように重篤な症状が予想されるなら、エピソードを真剣に話せば本人は納得する
 そうは言っても、アナフィラキシーショックのように重篤な症状が予想されれば話は別です。こんな場合は、今までのエピソードを真剣にお話してください。複数の人に真剣に言われれば、本人も必ず納得します。
 
(5)良いアドバイザーになるための心得
 お子さんが小学生になれば、親も管理者からアドバイザー(相談者)にグレードアップしましょうということです。良いアドバイザーになるには、幾つか心得て欲しいことがあります。
 
)お子さんと相談できる体制を築き上げる
 まず、お子さんと相談できる体制を築き上げることです。今まで親が決めていたことを、多少誘導的になっても良いですから、お子さんに最終的な決定権を渡してみることです。その決定がとんでもなく危険な場合は、「この次、病院の先生に聞いてみようか?」と、医者に振ってみてください。医者に聞く時には、本人の立場になって試してみたい気持ちを応援してください。私は、どういう物を試したいか聞いて、それに似た物で満足できそうな物を提案したり、それを試してみるまでのステップをお話しています。
 自分が決めるとなると結構迷いますから、それなりの理屈や自分自身が納得できる理由が欲しくなります。親のアドバイスが冷静で説得力のあるものなら、お子さんにとって最高のアドバイスです。目標を、良い症状を保つことだけに置かずに、親から離れる時までに自分の健康管理を一人でできることに置くべきです。主なアレルゲンや誘因がはっきりしない段階では難しいですが、これらがはっきりしてきて少し症状が落ち着いた段階では、方針をこちらにシフトしてください。
 
)今までに起こったエピソードを機会ある毎に繰り返し伝える
 ア)まで良い関係ができないとしても、これだけは実行して頂きたい方法です。それは、今までに起こったエピソードを機会ある毎に繰り返し伝えておくことです。例えば、「昔、赤ちゃんの時、おまえが○○○を食べて△△△△△になって、あの時はびっくりして××××しちゃったなぁ。」とかですね。そんな話を聞いていても、何かの機会に試してみたくなるものです。子供達には子供達なりの付き合いも有りますから、避けられないことだって当然出てくるのですから。もちろん、親としてはちょっと心配ですが、そんな気持ちも持てない子の方がもっと心配ではありませんか?あまりひどい失敗は困りますが、小さな失敗を何度も繰り返すうちに、強く反応するものなら納得して避けるようになります。ただし、大抵は前に強く反応した物でも症状は軽くなったり、遅れて出てくるようになりますし、調子が良い時には少しぐらい食べても症状が出なくなります。
 そのうち体調の悪い時でたくさん食べた時にしか症状を出さなくなるくらいまで回復していきます。そこまで行くと、アレルゲンが何か頭に無いと自分だけで原因を見付けることは難しくなります。そんな時に、昔のエピソードの知識が生きてきます。体調とか調理の方法とか量とかがどの位までなら大丈夫なのか、その後どの位ダメージが残るのか判っていれば、気を付ける方法を自分で思考錯誤しながら見つけられます。昔話はその貴重なヒントになるわけです。どんな人付き合いが無難なのか、症状が出るか出ないかだけではなくて、自分のライフスタイルを築き上げる、格好の準備(練習)材料にできるのではないかと思います。
 
)プラス思考を育てる
 次の心得は、お子さんにプラス思考を植え付けることです。アレルギーの子は劣等感を持ちやすいのですけれど、アレルギー性格というのがあるのではないかと思えるくらい、アレルギーのお子さんは好きな物ごとには集中力を発揮します。よっぽど悪いことでなければ、興味と自身を持てることを伸ばしてやってください。
 「楽しく体を動かすことなら、もっと良いなあ。体を動かすことで、糖分を熱エネルギーに変えれば、甘いものの許容範囲を広げらるし。しかし、競い合うよりも協同で何かを作り上げるほうが良いなあ。少し頑張って動くと、喜ばれて感謝されることは身の回りにたくさんあるんじゃぁないか?・・・・・」、そんな欲張りがいけないんですよ。とにかく、長続きできることを一番大切にして欲しいと思います。
 
)基本的な料理方法のマスターを
 これは出来ればですが、小学生のうちに基本的な料理方法をマスターさせることです。食べ物アレルギーの対策は食事療法ですから、自分で料理できればバッチリですよね。しかし、楽しくなければ、台所に二度と立つもんかと思うでしょう。最初は遊び気分で楽しく、次に周りから感謝を込めた褒め言葉をかけます。太鼓持ちになって自信につなげてください。最終的には、料理することが苦にならない所まで持って行ければ最高です。将来、自分に合った食事を自由自在に作れれば、食事についてはどこに行っても心配しないで済みます。中学になると、部活や勉強が忙しくなるようです。小学生のうちに慣れておいて、中学高校では短い時間に料理をこなせるようになれば、言うことなしです。
 
 これで5まで終わりましたが、これまでの方法で注意しなければならない問題点もあります。例えば、必要以上に思い込みや先入観を与えてしまうことがあります。悲観的なお子さんでは、慎重になりすぎて行動範囲が極端に狭くなることがあります。この様な場合には、常にプラス思考を導いて、自分で決める練習をさせて下さい。
 
 逆に、楽観的なお子さんなら、少しブレーキになって良いでしょう。少し食べたくらいでは反応しなくなったり、たくさん食べても軽い症状しか出なくなると、油断してついつい日常的に食べるようになってしまいます。しかし、そのような時にアナフィラキシーのような重いアレルギーが起きやすいと警告している医者もいます。
 私は、どちらかというと、以前合わなかった物については、体調の良い時を見計らってイベント的に試すという気持ちでいるほうが無難ではないかと考えています。
 
 最後ですが、今日のテーマに限らないで、今、私が考えていることをまとめてお話してみます。
 
6、アレルギーから何を学び、目標をどこに置くか?
 最終的には、何をどんな状況の時に、どの程度までに留めるのが良いのか?それを知り、自分自身のライフスタイルを設計できるようになれば良いと思います。完全に症状が出なくなるより、少し度を越した時にモニターとして軽い症状が出るくらいが、健康は保ちやすいでしょう。自分の体がどんな状態なのか、それを教えてくれるアレルギーを味方に付けることです。症状が激しい時期には、そう考える余裕はないですが、軽快していく過程で考えて下さい。そうできれば、アレルギーが、自分の生き方やこれからの社会に必要なことまで実感させてくれるでしょう。
 また、アレルギーには慢性でもっと重い病気への警鐘という社会的な側面があります。最近、アレルギー−>化学物質過敏症−>電磁波過敏症と進むケースを何人も続けて診ました。化学物質過敏症も広い意味でのアレルギーと考えますと、アレルギーはより判り難い環境ホルモンや発癌性、もっと深刻な未知の問題まで警告しているのかも知れません。今日はお話できませんでしたが、シックスクールもそんな観点から考える必要がありそうです。
 
 「奪われし未来」という本がありますが、子供達の未来を奪わずに済む社会に向けて、食べ物ばかりではなく、水質や空気質、人間関係や自然界にまで目を向けていきたいものです。アレルギーを絆に、みんなの信頼関係を築く第一歩にしましょう。それにはまず、集団生活の中で、正確な情報を交換し(嘘やだましを徹底排除した上で)相手への要求レベルを下げて、互いに理解し心から感謝しあうことが大切です。そして、より良い社会に向けて一緒に考える人々の輪を広げていくことだと思います。このことを踏まえて、お子さんの集団生活のスタートを考えていただければ幸いです。
 
蛇足ですが、最近、参観日に具合の悪くなるお子さんが増えているようです。原因は、どうやらお母さん達の香水や制汗剤などの揮発性物質に対し、化学物質に過敏なお子さんがやられるようです。お気を付けください。