食物アレルギー治療法の基本
 
(はじめに)
 このリーフレットの目的は、長谷川クリニックに通院される方と御家族に、私の治療方針をお伝えすることです。短い診療時間でうまくお伝えできない時や一緒に来院されなかった御家族を考えて作りました。アレルギーは個人差が特徴です。そのため、様々な治療法が考案され開発されています。私は、この中で食事療法を中心に診療してきました。ここでは、私の経験に基いて、改善する確率の高い方法を優先しました。理論が曖昧でも多くの方に当てはまる事実を書き、参考文献と私の解釈を添えました。まだ、完成したものと考えていませんので、改訂して行くつもりです。より良い情報になるよう皆さんのご意見やご指摘を頂ければ幸いです。
 
(アレルギー急増に思うこと)
 今の日本は、自給率が低いのに食べ物にあふれ、鍋釜が無くても生活できます。食べ過ぎが成人病に悪いのは分っていても、ご馳走を前にして食べずに我慢するのは大変です。食べ物アレルギーの根本原因を、私は三点考えています。第一が食べ過ぎです。二つ目は、外見と便利さを満たすための方法、特に化学物質への依存と乱用です。アレルギーの少なかった頃に比べ、ビタミンとミネラル不足しています。素材で云えば 野菜と海藻ですが、この不足が第三点目です 。
 食べ物アレルギーの治療では、多くが和食の基本に沿って食品を広げて行くと、治りが速くなります。このような食事療法を続けていくと、たまのお祭り食では症状が出ないか、出ても軽く済む例をたくさん経験しました。食べ方でも、食べ過ぎず腹八分にしてゆっくり良く噛むことが大切です。良く噛めば、とりわけ唾液の分泌が高まります。唾液には、発癌の抑制効果の報告もありますし、食べ物アレルギーの予防や治療にもつながるからです。
 また、健康を維持できる許容範囲には、個人差があります。同じ人でも年齢、体調、運動量など状況に応じて許容範囲は変わりますが、このことを踏まえて生活すると効果的に病気の予防ができます。一方、現代の日本人の多くが、特にカロリー面でこの許容範囲を超えていますし、ビタミンとミネラルは不足しています。これら祖先の食生活から大きく外れた要因が、日本社会全体として食べ物アレルギーや成人病を急増させる原因になっています。そして、食べ物アレルギーは、早くから症状が出やすい分、成人病への警鐘と言えるとも考えます。
 
(食べ物アレルギーの特徴)
 食べ物アレルギーが症状を表わし始めるまでには、様々な条件(体質、心身の状態から飽食や化学物質の汚染、気候の変化まで)が関わっています。症状を抑える対症的な治療法で軽快せず慢性的に繰り返す場合、原因の診断と治療が必要です。私の診療の中心は、アレルギーの原因 (アレルゲン) を見つけ出して対策をとることです。私の診療方法を説明する前に、アレルギーで最も基本的な特徴を五点お話します。
 一つめは、症状を出す条件です。大抵の場合、幾つかの要因が積み重なり、許容量を越えると症状が出始めます。その要因には、アレルゲンばかりで無く気象条件など外部条件や心身の状態も含まれます。
 二つめは、個人差です。アレルゲンの種類も反応の強さも人により違います。どの要因がどの程度強く反応するかが判れば、治療や予防をしやすくなります。
 三つめは、各要因の特性です。どんな処理でも変化しないもの、その性状、調理方法や量の調節で解決できるもの、他のファクターとの組み合わせで症状が現われたり許容範囲が変わる物まで、この特性は様々です。これらファクター側の特性が私たちの個人差と複雑に関連しあって、診断を難しくしています。
 四つめは、食物アレルギーの位置づけです。食物アレルギーの定義は、『食べ物とその添加物で起きる有害反応のうち、免疫が関わっているもの』となっています。しかし、現在ある検査では、確実に免疫反応を裏付けるのは困難です。そこで、除去誘発試験が、ひとまず最終診断となっています。
 この除去誘発試験というのは、症状が止めて良くなり食べると再現することで診断する方法です。但し、この方法ではアレルギーだけでなく、酵素欠損やヒスタミン・プロスタグランディンを含むか誘導する場合も含まれます。更に、思い込みによる精神的なものまで入るでしょう。しかし、大抵は、これらの要因も単独で無く、幾つか重なり合い絡み合っているものです。
 逆に、アレルギーが有っても、他のファクターがぐっと減ると、症状が出ないことも有ります。たとえば、同じ物を食べても、入院中なら症状が出ないのに、家で食べると出るケースがあります。
 最後は、アレルゲンに接触してから症状が現われるまでの時間です。これが数時間以内と短ければ(はっきり型)、繰り返すことで原因は特定できます。しかし、ツベルクリン反応のように日単位と遅れて出る場合(かくれ型または覆面型)は、頭で考えただけでは特定しにくいものです。この覆面型の方が多いのに検査でつかまりにくいことも、診断を難しくしています。
 これら五つの特徴を頭に置かないと、除去内容ばかり増えたり効果的な治療に結び付かなかったりします。
 
(アレルゲン診断での基本)
 私は初診の時、臨床で得た経験(患者さんに教えられたこと)から原因を推定して、ひとまずこの辺りから始めてみましょうと提案します。できるだけこの提案に沿って食生活を変えて頂ながら、さらに診断を進めて原因を探し出し治療に結び付けるために、個々にあった対策をその都度提示しています。この時、家庭での問題点や心理状況への対応も重要ですので、一緒に相談しながら二人三脚で診断と対策を進めることが大切です。
 さて、現在ある診断手段を示してみましょう。
   1.病歴、食歴(本人、家族)---特に、摂取食物と症状の関係・・・最重視
   2.診断所見---皮疹、アレルギー所見、一般所見
   3.検査 ・血液(IgE、IgG(G4),ヒスタミン遊離試験、リンパ球幼若化試験 ほか)
                                  ---  参考
       ・皮膚テスト(プリック、スクラッチ、皮内、パッチテスト ほか)
       ・除去誘発テスト(二重盲検、オープン ほか)    --- 最終診断
 などです。
 
 これらの情報の中で私が最も重視するのは、それまでに起こってきた事実です。検査データは、一見クリアカットに数字で出ますが、必ずしも現状を反映しません。過大評価せず、一応の目安に留めます。診断にはこれらを参考にして、止めてみたり(除去試験)食べて確かめてみること(誘発試験)を繰り返します。
 この時、激しい症状を出さず、必要な栄養を損なわ無いよう配慮しながら、食べても大丈夫な範囲を広めることを第一目標にしています。
 
 ----これまでの内容と重複も有りますが、以下に診断に必要な注意事項を示します。----
 
 アレルギーは、個人差の大きい色々なファクターが積み重なり或るレベルを越えることで、症状を出し始め悪化して行きます。アレルギーの特徴は個人差であり、大きな要因から見付け出し対処することが重要です。
 
 栄養を考えるとき、長い歴史の中で淘汰され生き残ってきた食習慣を基本に据えることが無難です。伝統食で生き残った祖先の遺伝子を、私たちは受け継いでいます。出発点を和食の基本に近づけると、失敗が少なくて済みます。
 野菜は、それ自体のアレルギーもありますが、農薬の違和感や繊維の舌触りを嫌う場合が多いようです。不足しがちなミネラルやビタミンを補給するためにも、野菜は十分摂る必要があります。
 
 体調を乱す因子は、しばしば消化吸収をも乱しがちです。栄養を考え我慢して食べていた物が、実は栄養を損なう原因になっていることもあります。合わない物は避けるのが原則ですが、原因が多種の場合そうは行きません。そこで、日常診療ではこんな重症者を考え、反応の弱い食品まで含めて日替りか一食毎に種類を変えて食べる、回転食行います。また、この方法では、同じ物を食べる間隔を開けるので症状のコントラストを明らかにでき、診断しやすくなりますので、その人の食品に対する反応性と体調に応じて食べる量や頻度を加減しながら、診断と治療を平行して進められます。
 それからプラス思考は、自律神経系の好ましい状態を引き出すことで免疫系を正常化する方向に働くため、アレルギーを軽減こそすれ悪化させることはありません。プラス思考を心掛けましょう。
 重症の場合、合わない物(アレルゲン)を急いで見付けて行くことより、確実に大丈夫な範囲を広めていく方が精神的には楽です。新に試して行くものは、調子の落ち着いている時に、反応を強める因子(時間帯や増強物質)を含まず反応しにくい形から始める方が良いでしょう。
 食事を変えた後で返って悪化した時には、一旦元に戻してみることも必要です。除去した代わりに増やした物のためにアレルギー反応を増していることもあります。一旦引いて、情報を整理し直してみましょう。嗜好品では、依存症に陥り禁断症状が出ている場合もあります。このチェックも必要です。
 重症の場合、除去開始後の3〜4ヶ月間は、非常に過敏に反応することがあります。ステロイドのリバウンドは、過敏な期間が一年前後ありますが、最も激しいのは3〜4カ月です。この時期は、除去すべき物は厳密に行い、他の物も回転しながら注意深く食事療法を進めます。この期間が過ぎると、意識できるのは元々強いアレルゲンだけです。体調の悪い時だけ症状を出す弱いアレルゲンは、この時期にしか気付くことは難しい場合もあります。これを確実に診断しておくと後の対策に役立ちます。
 また、小さい時に強く反応した物は、普段大丈夫でも体調を崩した時や強い形で大量に入った時などに、出方や出場所が変っても症状を出して来ることがあります。合わないと確認できた物は、大きくなってからのヒントになります。母子手帳などに記録して置きましょう。
 
 食事療法は、家族が原因物質を目の前で食べているのでは上手く行きません。体質は似るものです。 症状は違っても、同じ物が気付かないうちにジワジワ進行する重い病気の原因になっていたりもします。 アレルギーの患者さんは、辛い思いをしながら家族に今のままでじゃ危ないよと注意信号を出しているのだと考え、予防のつもりで付き合っては如何がでしょう。
 親が自らの判断だけで先行し過ぎず、小学生以上の本人や家族とは 同じ目線でよく相談しながら食事療法を進めることが、望ましい家族関係を築く近道になります。
 
(反応を強くする因子)
 誘発テストで激しい症状を出さずに効率良く診断して行くには、食物アレルギーの反応を強める因子を知っておくことも大切です。この増強因子には、アレルゲン側とそれを受ける生体側の両面があります。
 
1)アレルゲン側;
 名古屋大・農学部の中村元教授は、小児アレルギー学会の特別講演で、酸化した油から出るマロンジアルデヒドが、アレルギー反応を数百倍まで強め得ることを発表しています。何度も使ったり古くなった油が反応を強めることは、臨床の場でも実感します。大豆アレルギーでは、豆腐よりも大豆油で強く反応しがちです。乳糖についても、古くから牛乳アレルギーの関連で言われてきました。また、アメリカのランドルフは、吸収速度の速いもの、頻回大量に食べている物と共に、化学物質との結合でも、反応しやすくなると言っています。
2)生体側;
 アレルギーを起こし易い腸の状態を考えましょう。正常な状態では、十分消化して小さな分子にしてから吸収しますが、消化が不十分で大きな分子のまま粗っぽく吸収される状態では、アレルギーを起こしやすくなります。赤ん坊は腸自体が未熟です。大人並になる4才くらいまでは、十分な注意が必要です。腸の表面が蕁麻疹のようにむくむ時や、アレルギーや感染症などで腸がただれる時にも、同じ状態になります。カビについては、後で触れますが、毒素の影響も言われています。これとは別ですが、洗剤などに含まれる界面活性剤でも同じ状態になりなす。
 これらは誘発テストで気を付けるのは勿論ですが、アレルギーを起こすきっかけにもなるので、予防上も重要です。