(私の治療の実際)
 食べ物アレルギーの対策として症状を強く起こす食品を止め、昔の食べ方に近づけて行くと、暫くして何を食べても症状を出さなくなる人がいます。しかし、症状を出す食品を全部止(や)めると、食べるものがほとんど無くなる人も出てきました。日常診療ではこんな重症者を考え、反応の弱い食品まで含めて日替りか一食毎に種類を変えて食べる回転食という方法を私は薦めています。その人の食品に対する反応性と体調に応じて量や頻度を加減しながら、診断と治療を進めています。
 先にお話した原因を診断して行く過程は、そのまま治療の始まりになります。この段階が最も辛いのですが、ここを乗り切れば、その先はスムースになります。どの程度の量と頻度で食べても大丈夫なのか、その食べ物の許容量を見つけて行きます。許容量は、心と体の調子や気候など色々の条件により変わりますが、徐々に広がって行きます。こうして、アレルギー反応は軽くなり、治まっていきます。
 しかし、食べすぎたりすると、ぶり返すこともあります。診断でお話した繰り返しになりますが、食事療法は家族みんなで行わなければ長続きしないものです。ご家族を含めて、成人病などの病気を予防する意味からも、みんなで基本的な食事療法は続ける方が良いでしょう。 
 
 ----それでは、これから個々のアレルゲンの特徴と診断治療の進め方について
                                お話します----
 
(皮疹と原因物質)
 原因を推定するとき、皮疹も参考にします。これだけでは原因を特定できませんが、弱い反応が蓄積したタイプと強く反応するものが急に入ってきたタイプかを判断する目安としては、価値が高いものです。
 大雑把ですが、弱い反応が積み重なり症状が出るタイプは、大きな皮膚面がほんのりと赤くなりその上に粉をまぶしたように白いカサカサが乗っているような皮疹になります。症状が進むと皮膚が厚くガサガサし皺(しわ)になり象の皮膚のようになったり割れて亀裂になることもあります。(穀類や糖分、牛乳などに多い)
 逆に、強く激しい反応が起これば、ブツンとニキビ状に赤く腫れ上がったり初めから掻き壊してジクジクになって細菌感染を起しやすくなります。(主に動物性蛋白質)
 どちらも、症状が進んで炎症面が赤いまま厚くなったり掻き壊して炎症面が広がった時には、同じように広がりをもって厚くなり傷やジクジクを伴ってしまいます。油脂は、脂腺にトラブルを起すのか鳥肌のように毛穴が膨らんだ形や、余った油がフケや脂の固まりとなって染み出して来るような場合(脂漏性湿疹)が典型的です。
 よだれ、おむつ、汗や引っ掻き傷などの刺激が多い所が余計に症状を出しやすいのは、積み重ねのベースラインが高くなるためでしょう。
 
(推定したアレルゲンへの基本的な対処方法と知識)
1)豆と油の場合
典型的な皮疹;
 豆と油で出やすい湿疹は、毛穴に一致した鳥肌状の湿疹で、汗疹(あせも)や洗剤負け、日光湿疹も起こしやすくします。掻くと盛り上がった湿疹の上が削ぎ取られて、点々と小さな出血点が沢山出来ます。耳の下がスット切れたり、余った油がフケや脂の固まりとなって染み出して来るような場合(脂漏性湿疹)が典型的です。
(注)大豆の皮疹に関しては、河野泉氏が、著書の中で詳細にまとめています。
 
対処方法;
 サラダ油は、大豆由来が主です(コーン油も別の問題があります)。私は、ひとまず豆と油を一括りにして考えています。この中で、一番強く反応するのは、古くなったり繰り返し使って酸化した油です。このような油から出るマロンジアルデヒド等の酸化代謝産物が、アレルゲンへの反応を数百倍にまで高めるという報告があります。(注1)大豆に反応する人になら、大豆油が酸化するだけで大変強く反応することになります。(大豆油中の大豆蛋白+酸化油由来のマロンジアルデヒドとなるため)
 確かに、インスタントラーメンなど油が古くなり易い物、ファーストフードやスナック菓子、市販の弁当や惣菜の天ぷらやフライなど繰り返し使った油で揚げた物では強く反応しがちです。
 同じような症状が出る場合を追って行くと、豆類で油に匹敵するのは、まず甘い物と一緒になった物です。あんこやチョコレートが典型例ですが、チョコレートは特に強く、昔から吹き出物や鼻血を出しやすいことが知られていました。(注;チョコレートには、豆の成分や甘い砂糖のファクターの他に、チラミンという血管浮腫を起こして出血や腹痛を起こすファクターが含まれています。このチラミンは、アレルギーを悪化させる要因にもなります。;参考資料ー食べ物通信、角田より)積み重なる背景要因が少なくてアレルギーが問題にならなかった時代にも症状を出した、強いファクターということでしょう。
 この他、ピーナッツやコーヒーの方が大豆より症状を出しやすく、この程度までしっかり止めると豆油に関してはOKという方も少なくありません。(注2)
 そこで、サラダ油と一緒にピーナッツやチョコレート、あん物、コーヒーを止めてみることを、豆・油を疑う時の第一段階としています。
 豆類というと、直ぐ大豆を思い起こしますが、実は、味噌や醤油、豆腐(油脂成分が少ない)だけは大丈夫という方が案外多いのです。(モヤシは、豆と云うより茎や芽の部分が主であり野菜的で、反応が異なります。むしろ、水耕栽培に使われる水、肥料や添加物の方が問題かも知れません。) 納豆は、納豆菌が大豆蛋白を分解するため、2日くらいの発酵で反応性が随分落ちるそうです。(注3) 但し、粘々(ねばねば)で接触性の皮膚炎が出たり、納豆菌に反応することもありますので、大豆以外の部分で注意が必要です。
 大豆も、枝豆となると少し強くなります。枝豆よりは、キヌサヤ花豆や小豆の塩煮等の方が反応しにくい傾向にあります。味噌、醤油と豆腐、納豆、モヤシ、キヌサヤを各1ブロックとして試して大丈夫なら、大豆以外のこのような豆類から先に試す方が食べられる範囲を広げて行くという意味では得策でしょう。最初は、味噌か醤油ですが、初回は濃度を極く薄くし10分以上火を通したものにしてください。
 但し、乳幼児では、まれにですが豆腐の方が強く反応してしまう例外的なケースもありますので注意して下さい。
 
 豆油で一般的に反応性の高い順に示すと、
 1、サラダ油 2、甘い物+豆 3、ピーナッツ.コーヒー 4、大豆.黒豆.枝豆
 5、小豆.花豆...6、もやし.キヌサヤ 7、納豆.豆腐
 8、味噌.醤油(河野泉氏によると10分以上火を通すことで反応が随分弱まるそうです) (止める順序は上から順に、試す順序は下から順に)
 
 油物を止めてしまうと、お腹が空き過ぎて上手く食事療法を続けられなくなる場合があります。そこで、体に合う油を捜します。リスクを減らす条件のひとつは、酸化しづらいことです。私の知る範囲では、オリーブのエキストラバージンオイルが最も酸化しづらい油です。他に、からしな油やブドウ油も良い人が多いです。また、アレルギー反応を受ける油成分がより軽い症状の方に導くといわれる紫蘇油にしてみるのも良いでしょう。いずれにしても、古くなれば、どれであっても酸化しますから、できるだけ小さな瓶にして、せいぜい1ヶ月くらいで使い終えるようにして下さい。2種類以上の油を併用することは、どの油も古くすることになりますので、良くありません。油を回転して使いたい方は、1つが無くなった時点で変えて下さい。どうしても他の油が必要なら、フレイバー程度にミニの瓶にするか少しだけその時に分けて貰うのが賢明です。いずれにせよ、最も大切なのは、その油に反応するかどうかです。駄目なときに無駄を少なくする意味でも、試すのは小瓶の方が良いのです。 
 
 (注1)ピーナッツは語尾にナッツが付いていますが、豆属です。ローストすることでより強く反応するという報告もあり、やはり油に問題がありそうです。欧米では、ピーナッツは卵乳製品と共に3大食物アレルゲンに入っています。日本での3大食物アレルゲンは大豆になりますが、どちらも豆類です。コーヒーは、カフェイン中毒の代名詞になっていますが、依存症になりやすい嗜好品です。化学物質過敏症を起こしやすいという指摘もありますが、肩こりや頭痛、体のだるさなど自律神経症状を伴い易い特性があります。また、カフェインは、血圧を上げる作用があり、高血圧の人にも注意が必要です。
 (注2) 味噌醤油では、麹菌が大豆の蛋白を加水分解して粉々にしてくれますので、アレルギーが起きにくくなると考えられます。味噌や醤油では、天然醸造の物の方が反応する人が少なく、2年物くらいが味も良くお薦めです。早生の物では、食品添加物による反応が含まれるためかも知れません。反対に、特定の麹菌に反応しやすい人や微量の小麦や米に反応する場合もありますので、これらが駄目でも大豆自体に対する反応が必ずしも強いことを意味しません。
 (注3)油や豆腐では、製造工程で使うヘキサンに反応する人もいます。輸入大豆ではポストハーベストによる残留農薬にも注意が必要です。豆腐の場合、消泡剤が原因かと思われるケースもあります。逆に、消泡剤を使わないために用いた糠や菜種油にトラブルを起こす人もいます。試し初めは、できるだけシンプルで安心度の高い物から試して下さい。
 
2)動物性蛋白(牛乳を除く)の場合
 卵に代表される動物性蛋白は、比較的激しく反応して細菌感染を起こしやすいのが特徴です。とびひ(注)、中耳炎、扁桃腺炎や溶連菌感染を繰り返す場合、ニキビでも大きく膿を持って赤く腫れ上がる場合は、まず動物蛋白の影響を疑います。頻度として卵が一番多いですが、魚貝類や肉類でも同じような反応を起こします。蛇足ですが、私は魚に反応が強く肉も多くなるとブツブツ化膿疹が出てきます。
 動物蛋白での強さは、油から出る酸化代謝産物マロンジアルデヒド等でも増幅します。油の影響を除けば、一番強いのは生(なま)の状態です。魚なら刺身、肉ならレアのステーキやタタキです。次が、干物です。動物自体の脂が酸化するでしょうし、時間が経つと仮性アレルゲン(注4)と呼ばれる化学物質が増えます。時には、半生まの方が強い場合もあります。(スルメ等)その動物蛋白が怪しい場合には、特に生と干物には注意して下さい。
 新鮮な物の方が反応性は低いですが、良く熱を通して脂を落とすと一層弱くなります。具体的には、網焼きでジュウジュウ脂を落とすとか煮こぼすなどです。一番弱いのは、この様に処理した物を出汁(だし)として煮た野菜です。スープには脂だけでなく溶け出した水溶性の蛋白がしっかり入っていますので、結構強く反応することがあります。そのスープが少し染みた野菜が、しばらく食べるのをストップした後で試す最初の食品です。これで大丈夫なら、スープや出汁にした身でも良いでしょう。脂の少ない淡泊な部分(種類)から徐々に脂の多い部分(種類)に挑戦していきます。時間帯も朝昼から夜へ、量も徐々に増やして行きます。調子の悪いときでも生で平気なら、まず、その食品には反応しないでしょう。当然ですが、今までの経過から大丈夫と確信できれば、反応性の強い形から始めてもかまいません。
 また、少しでも食べられる範囲を広げようとする考えはプラス思考につながります。一緒に鍋をつつけるだけで随分気が楽になるのですから、スープの染みた野菜が食べたべれるだけでも意味があります。
 では、この中で一番頻度が高く強く反応しやすい卵を例に考えてみましょう。
 まず、生卵が大変強く反応するのはお分かりでしょう。多くは魚卵にも反応しますので、生に近い明太子イクラやウニに強く反応しますし、干物である子持ちシシャモにも注意が必要です。しかし、卵の中で最も強く反応するのはマヨネーズです。生卵と油(マロンジアルデヒド)という強力な組み合わせになります。
 
※離乳食の進め方--動物性蛋白編
 離乳食の進め方については別に詳しくお話ししますが、動物性蛋白での基本を示します。母親が食べて母乳中に出る蛋白量は極く微量のため、母親が食べて(母乳を通して) 大丈夫な物から離乳食で試します。どちらも調理して弱い形のものから試しますが、母乳を通してなら、最も強い形の物を多量に食べても、赤ちゃんが直接、最も弱い形のものを極く少量食べるより場合よりも反応は弱くなります。
 離乳食で動物性蛋白を試す順序を示しますと、2回食になって落ち着いた頃から始めますから、スタートの目安は7ヶ月以降です。最初は、淡泊な白身魚をあらかじめゆでこぼし、その出汁(だし)で煮た野菜をペーストにして少量から始めます。大丈夫なら、スープ自体や出汁を取った後の身へと進むか、ゆでない物を同様な方法で試します。似た物なら、淡泊な物から脂っ濃い物へと進めます。
 途中の段階でトラブルがあれば、しばらくその前の段階に留めます。小さなトラブルなら、調子の良い時を見計らって量を控えめにしながら再度試して行きます。一回目に駄目でも二回目からOKということもあります。調子の良い時に少量ならOKという結果でも、食べられる範囲が少しでも広がることの意義は大きいのです。逆に、一回目にOKで二回目から駄目なこともありますが、この場合はしばらく中止します。
 離乳食の初期には駄目でも、1歳を越えると大丈夫になる物もたくさん有りますし、4歳くらいになると、その量も質も格段に広がります。ただし、腸管の状態が良いことが必要条件ですから、強く反応する物は当分止めて置く方が賢明です。その兼ね合いは微妙で個々に応じた対応が必要ですが、正直な所、試してみなければ分からないのです。私の場合は、検査や経過で大まかな目安を付けながら誘発テストの時期や量と調理の形を慎重に決めています。
 試してみる動物性蛋白の大まかな目安を示しますと、
  (最初は、新鮮で天然のものを志向)
  ・7ヶ月半から;白身魚(淡泊→脂っぽい物へ)タコや貝類(アサリとシジミを除く)  ・9ヶ月から;イカや甲殻類、赤身と背の青い魚
  ・11ヶ月から;肉類、   (卵や牛乳は、1歳以後が望ましい) 
 
※除去誘発テストの進め方と注意事項
 動物性蛋白は、日替わりで回転して行く回転食(注5)が診断にも治療にも有効です。反応するように感じたなら、それをまず1〜2週くらい止めてみます。どのくらい悪いかの確認が必要なら、反応の弱い形から少しづつ体調を見計らって試して行きます。これが被害を最小限度にして確認する方法です。出来れば、最初の誘発試験は夜にしないでください。症状が激しい時、救急の対応がしにくいばかりか、反応性も夜の方が高いからです。 また、試し始めは素材の良い物からにしましょう。ブロイラーの鳥肉には反応するのに、地鶏では反応しない人もいます。素材そのものでは大丈夫なのに、直接間接に何かが付加したことで強い反応が起きた場合、付加した物が悪いと分かっても、その後では大丈夫なその素材自体を試すのは怖いものです。かけがえの無いお子さんなのですから、出来る限り被害の少ない方法を選んで下さい。
 
参考1)
 群馬大学小児科の松村龍雄名誉教授によれば、三代前からの食事内容が影響し、親や祖父母が大量に食べた物がアレルゲンになりやすいとしています。また、妊娠中に嗜好が変わり、母親がたくさん食べた物が(生まれたお子さんも大好物で大量に食べるためか?)、アレルゲンになる場合もありますので、これも原因を推定する時の参考に加えています。
 
参考2)強い反応を起すアレルゲンは家に置かない
 激しい反応を起す原因を家に置くと様々なトラブルが起きます。卵に大変過敏な子で、お父さんが弁当に卵焼を持って行く日は必ず悪化したお子さんが二人いました。料理の時出る揮発成分に反応したとしか考えられません。
 そこまで行かなくても、赤ちゃんは少し行動半径の広がってくると、台所のゴミあさりが大好きになります。料理に使った卵の殻には、生卵の白身が付いています。それに触った手を顔に擦って、顔が見る間にボコボコに腫れてしまった子がいました。似たようなことが、お兄ちゃんの飲み干した牛乳のコップを口にして一滴口に付いただけなのに、腫れが口から顔全体に瞬く間に広がった子もいました。どちらも命に別状は無くて幸いでした。このような場合がありますので、せめて激しい症状を起しそうな物だけでも家に置かないことです。
 
※母乳は重要
 食べた卵が母乳中へ移行する量を測定した実験から推定すると、個人差が大きいものの、濃度で高々10万分の1のオーダーでした。(注6)このことからすると、母乳中に出てくる卵蛋白は、せいぜい10000分の1のオーダー(1000分の1未満)にしかならないでしょう。従って、先に書いたとおり、母親が強い形で多く摂って母乳で与える方が、弱い形で少量を本人に与えるよりも、遥かにリスクが低いことになります。母親が最も強い形の物を多めに食べてみる段階の後に、本人に一番弱い形に調理した食品を極く少量から与えることを原則にすると、症状の程度を最小限にくい止めることができます。この意味でも、母乳の持つ役割は非常に重要です。この他に、母乳にはIgA抗体という、感染やアレルギーに侵されにくくする重要な成分も含まれています。
 
 離乳食へ移行する時期が早まり、アレルギーを起こし易い卵や牛乳など強力な食物が早期に与えられてから、アレルギーが増え始めたとの指摘があります。素食(粗食では無い)という簡素な食形態が中心の時代には、質・量ともに最も好ましい母乳が出ていたそうですが、人類本来の食の在り方を伺う貴重な証拠でしょう。アレルギーの診断や治療を進める上でも、できるだけ母乳で行きたいものです。
 ダイオキシンによる母乳汚染が云われていますが、牛乳からもゴミ焼却場に近ければ高濃度に検出されていますし、ミルクからはフタル酸エステルが検出されています。プラスティク哺乳瓶から出るビスフェノールAまで考えると、営々と築き上げられてきた哺乳類本来の姿(母乳を授乳すること)を否定するのは短絡的であり、本末転倒のように思います。母乳にさえ出て来て危険なのだから、ダイオキシン対策を早急に立てなくてはならない。本来あるべき状態近づけるよう、実態調査を行い実行可能な摂取食物の選び方と環境中のダイオキシンの低減化対策を探求して行こう、と云うのが常識的な思考手順でしょう。ダイオキシンを初めとする環境ホルモンは、近代文明の否定にもつながりかねない重大問題ですが、その実態の全貌が明らかになるまで待つ余裕が残されているかも不明です。今できることは、英知を絞り、良いと思うことは不確かであってもとりあえず行動し始めるべきだと考えます。子供達に確実な未来を残しておくために、できるだけのことはしたいものです。