(年齢別甘い物対策)
 甘いもの対策は、嗜好品対策と基本が同じです。
 
1)乳児期
 これまで書いてきた理由で、離乳食の準備段階で果汁を与えるのは好ましくないと考えています。生後2〜3か月程度で、味がわかるようになるそうです。赤ん坊でも嗜好品は好きです。甘いものの味を知ってしまうと、見ると欲しくなるものです。少しだけなら良いだろうと思われるでしょうが、その時は確かに良いのです。しかし、その後同じ物を見れば、どうしても欲しくなります。眼の前に出て来なければ問題は無いのですが、今の日本は食べ物に溢れ、旬など関係無しにどこへ行ってもあるのです。ストレスを最小限にして嗜好品を多くしないで済ます最良の方法は、嗜好品の味を覚えるのを遅くすることです。
 もし、覚えてしまったら行動範囲に置かないことですが、子供はすぐに成長するものです。昨日できなくても今日は出来るようになるかも知れませんし、そっと隠して置いた場所も簡単に見つけてしまい、静かに悪戯しているのが子供なのです。家に置かないようにするしかありません。また、そうすると家で食べなくても済むので家族みんなが病気の予防や回復につなげられます。この状態は好ましいのですが、実行は結構大変です。
 嗜好品を早い時点から与え始めると、それより魅力(刺激)を感じにくい味の淡泊なものは食べなくなります。野菜や海藻のように重要な食べ物の味覚を違和感無く刷り込む時期を失うことになります。素食となる素材本来の味を覚えてもらうためにも、嗜好品の開始は遅らせる方が良いと思います。
 離乳食の準備段階として果汁が薦められていますが、ミルク以外の味を覚えるためと言うのであれば、野菜スープで十分な筈です。それで飲まないのなら急ぐ必要は無いでしょう。離乳食を早め過ぎた弊害がアレルギーを増やしたという考えがありますが、その真偽は別にしても、以前は今推奨されている程早くは無かったのは確実です。体を大きくすることに捕らわれて、健康を害したのでは何にもならないでしょう。離乳を早める必要の無いことは、歴史が証明しているのですから、焦ることはありません。
 しかし、可愛い赤ちゃんの喜ぶ顔が見たいという気持ちは、肉親ならずとも抱く自然な感情です。増して、お爺ちゃんお婆ちゃんともなれば孫の喜ぶ顔をみるのは何にも増して嬉しいでしょう。親としては、自分の子どもを可愛がって下さるこの気持ちは大切にしたいものです。その感謝の思いを伝えながら、一緒に相談されることをお勧めします。私が診療の中で提案している対策は、実家に里帰りした時には、お爺ちゃんお婆ちゃんに「欲しがったら、上げて下さい」と言って、普段食べている物より少し甘い物を渡しておくことです。お爺ちゃんお婆ちゃんとお孫さんのコミュニケーションをスムースにとるためにも、この程度の配慮は必要だろうと思います。親は子に責任がありますが、お爺ちゃんお婆ちゃんにとって可愛い孫でもあるのですから。
 しかし、そんなことでは満足してくれない場合もあります。神経質になりすぎていると誤解されて、隠れて食べさせられるよりは、食べた後にどうなるのか知ってもらう方が遥かに建設的です。被害を最小限に喰い止めるには、ギャラリーは多ければ多いほど良いでしょう。一辺にたくさんの人に理解してもらえれば、その中の何%かは注意してくれるものです。
 理解者を増やすのも、孤立しないで子育てするには重要なことです。懲らしめてやろうと考えている人なら別ですが、可愛がってくれるお爺ちゃんお婆ちゃんならきっと理解してくれます。誰かに「大丈夫だからやって見ろ」と言われたら、「先生は○○○○と言ってたけど、これくらいで試してみて良いよね」と同意を求めて試してみましょう。症状が現れるのはその日とは限りません。試すなら、その時居合わせたメンバーが観察できるように、なるべく早くに試し、できるだけ長く滞在することです。症状のギャップを見せるのがポイントです。悪い話だけ聞き、症状の乏しい孫が甘い物に喜ぶ姿だけ見て、家に帰ってからひどくなった話だけ聞いても納得できはしません。そんなにひどい症状で無くても、目の当たりにするとインパクトは大きいものです。そのとき「こんな程度で良かったは」と言ってあげれば、誰も神経質な親とは思わなくなります。お子さんを自分だけで守るのではなく、ご家族と一緒に育ててもらう発想をお持ち下さい。
 
2)幼児期
 乳児期の延長ですが、この時点で食事療法を意識し始める場合は、多くが既に嗜好品にどっぷりと毒されています。嗜好品は依存症になりやすく、止める時には禁断症状にも似た抵抗があるものです。しかし、大人と違って眼の前にさえなければ何とかなります。欲しいとせがまれた時、いつもの場所(冷蔵庫や戸棚など望みの嗜好品をいつも置いている定位置)に行き、無いのを確認させて、“無くて御免ね”と言えば大抵は許してくれます。それを繰り返してしばらく行くと、あまり言わなくなります。しかし、一旦見てしまえばくれるまで頑張るでしょう。そこなら分からないだろうと隠したつもりでも、お子さんはしっかり見ています。見つかれば、子供といえども信頼関係にひびが入りかねません。
 よく、上の子は症状が出ないからと云って、隠れて食べさせる親御さんがいます。表面の症状は、ほんの氷山の一角に過ぎないのです。同じ兄弟なら、体質が似ているかもしれないのです。むしろ、辛い思いをしながら、お姉ちゃんお兄ちゃんに危険を知らせている兄弟孝行と受け止めては如何がでしょうか?そう考えなければ、上の子がその子を可愛そうに思うならまだ良いのですが、その子がいるために自分が必要のない我慢をさせられていると恨む場合すら有り得るのです。家の外では、たくさんお付き合いが有るのですから、家の中で予防する動機付けをしてくれるこの子に感謝して欲しいのです。そうすれば、厄介な困った子では無く、親孝行兄弟孝行な良い子を持ったことになります。
 プラス思考は、良い治療につながりますし家族の絆をしっかりさせてくれます。家族の誰かに害になる食べ物を置かないことは、食事療法の大原則です。もし、甘い物の積み重ねに余裕ができても、日常的に少量づつ増やすのではなく、イベント的に入れる方が良いでしょう。この方が、総量を多くせずに済むほか、原因も特定しやすいですし、なんと言っても悪化したときにはイベント内容を変えることで対応ができます。日常的な増量の場合には、このような変更は難しく元に戻されるという気持ちがストレスになります。
 
集団生活と学校給食;幼稚園や小学校の集団生活が始まる場合、アレルギーがあれば、受け入れ先の理解が大切です。集団生活に入るとき、「誰かにいじめられないか?」とか「本人がいじけないか?」と心配するものです。この心配は当然のことです。でも、子供達は割と素直なので、最初に働きかけがあると随分違ってきます。
 「○○ちゃんは本当はみんなと一緒に給食を食べたいんだけど、食べると痒くなったり ゼーゼーしたりするんです。だから食べないで頑張っているんですよ。みんなも協力してあげてね!」こんな説明が先生からあると、子供達は「こいつは、頑張っているやつなんだ」と思います。反対に他の所で食べさせたり隠していると「あの子は悪い子」とは思わないまでも「自分達とは違う子」として好ましくない差別意識をもってしまいかねません。周囲の大人の意見も様々でしょう。他のお母さんの「あんな食事しなければ良いのにね」という囁きを聞くと、子供達の中には「あの子は悪い子なんだ」という風に心理状態が変ってしまう子もいるでしょう。小さいうちは、特に大人の一言が大きいのです。一番最初に、先生達によく理解してもらいましょう。そして、先生が時々「頑張ってるね。先生にも少し分けて」などと声をかけていると、他の子供達ばかりでなく本人の受け入れも円滑になります。
 さらに、興味を持ったお友達も食べてもらうと、そんなに変わったものを食べていないことを理解してもらえます。お子さんが、クラスのお友達に打ち解けやすいように、一人だけ特別になっている違和感を解消する対策をとってみるのも良いでしょう。
 よく「かわいそうだね」と「えらいね」を、悪意はないのですが同じと思って使う人がいます。同じような言葉でも、受け取るその子にとっては雲泥の差があります。「がんばっているね、えらいね」と言われたら、力が湧いてきますが「かわいそうね」と言われたら涙が出てきます。言葉は前向きのものにしたいものです。
 さて、そうは言っても、美味しそうなものでも「うまくなさそう!」と言われて「ああ、美味しくないものを食べてるんだなあ」と委縮してしまう繊細な子もいますし、「おいしそう!いいなあ」と言われて何か引け目を感じてしまう子もいます。その子その子に合った対応が必要です。
 症状が軽くて、ストレスばかり強くなるようであれば、抗アレルギー剤を使いながら給食を一部食べるとか、いろいろ方法はあります。その子の症状や性格や気持ちを十分考えながら、良い方法を探って行く必要があります。
 私は、小学校に上がった子では、十分話し合って本人が納得するということがとても大切だと思っています。家の外でのことは、ある程度以上の緊張感がありますので、甘えを出すことを前提にする自宅とは違って、その子なりに納得できるケースが多いのです。
 徐々に耐性(注)がついてくると、除去を解除していくことになりますが、この方法には十分注意して下さい。解除しても、すんなり悪化しなければ良いのですが、悪化して除去を元に戻すときのストレスはたいへん大きいようです。最初は家で試しますが、大丈夫なら学校や公のイベントで試すことを繰り返すか週のうち何回かにするなど試すときと止めておく時のメリハリを付けておく方が無難です。また小学生になれば、少し乱暴かも知れませんが、自分の体調を考えながらその日の食べる内容を決める練習をして行くのも一方です。最初は、詳しいメニューを見ながらアドバイスが必要ですが、徐々に本人に任せるべきです。アドバイスをするために正確な現状を本人から聞き続けたいのなら、失敗したり試したことを言えなかった時に叱らないことです。言いやすい雰囲気を維持することがポイントです。
 いずれにしても、給食で除去の解除を進めるときには、失敗しないように少し抑制的に慎重にして下さい。解除の分、家では余計に気を付ける必要がありますし、季節的な配慮も忘れないで下さい。このことは、解除する前に本人とよく話し合っておくべきでしょう。そのことを納得した上でスタートして下さい。小学生までは、原則として、全体のコーディネートは無論ですが大人が管理することになります。
 
3)学童期;
 おしゃまな子、おっとりした子など個人差はありますが、小学生ともなると結構しっかりした理屈やもっともな言い分も考えつきます。全てを親が管理して、良い体の状態を保つのは難しくなります。本人は、試したい(食べてみたい) 気持ちと、自分としても症状を悪くしたくない気持ち(親が嫌がるためではなく)との葛藤ができるようになります。
 この時期に親に求められのは、失敗から学ばせる方向性でしょう。親は、私もそうですが、子供の苦痛を少しでも減らしてやりたいと思うものです。そのため、干渉し過ぎたり管理し過ぎて、返って精神的な苦痛を募らせる結果になりがちです。一度、立場をお子さんに置き換えてみてください。少し意見を聞かれて大人扱いされたお子さんは、その分大人になれるかもしれません。但し、アナフィラキシーショックのような重篤な症状が出る場合は、真剣に今までのエピソードをお話することで、本人も十分納得できる時期です。これからは、不快な症状が嫌だから食べないと自分で選択できることが健全で望ましい形だと考えます。
 
 お子さんが小学生になれば、親も管理者からアドバイザー(相談者) にグレイドアップしたいものです。良いアドバイザーになるには、幾つか心得て置いて欲しいことがあります。一つ目は、相談できる体制を築き上げることです。今までは親が決めていたのを、多少誘導的になるのは仕方ないでしょうが、お子さんに最終的な決定権を渡すことです。その決定がとんでもない危険を伴う場合は、「この次、病院の先生に聞いてみようか?」と医者に振ってみるのも一法です。そして私に聞くときには、本人の立場になって試してみたい気持ちを応援してみて下さい。(こんな場合、どういう物を試したいのか聞いて、それに類する物で満足できる物を提案したり、それを試してみるまでのステップをお話しています。)
 自分が決めるとなると、本人にすると結構迷いますから、それなりの理屈や自分自身が納得できる理由が欲しくなります。そのアドバイスが冷静で説得力のあるものなら、それが最高のアドバイスです。目標を、今の症状を良くすることだけに置かず、将来、親から離れるときまでに自分の健康管理を一人でできることに置くべきです。(主要なアレルゲンや誘因がまだはっきりしない段階では難しいですが、これらが判明し少し症状が安定した段階では方針をこちらにシフトして行って下さい。)
 
 二つ目は、一つ目の心得のところまで良い関係ができなくても実行したい方法です。それは、今までに起こったエピソードを何かの機会に付け繰り返し伝えておくことです。たとえば、「昔、赤ちゃんのとき、おまえが○○○を食べて□□□□□になって、あの時はびっくりして◇◇◇◇◇◇しちゃったなあ。」とか。でも、そんな話を聞いていても何かの機会に試してみたくなるものです。(子供達には子供達なりの付き合いもありますから、避けがたいことだって当然出てきます。)もちろん、親として ちょっと心配ですが、そんな気持ちさえ持てない子というのも、さらに心配です。あまりひどい失敗は困りますが、小さな失敗を何度も繰り返すうちに、納得して危険を避けられるようにもなります。
 しかし、多くの場合、以前は強く反応した物でも 症状の出現が軽くなって遅れて出るようになり、調子の良いときには少しくらい食べても症状を出さなくなります。そのうち体調の悪い時で、しかもたくさん食べた時だけ症状を出すくらいまで回復していきます。そうなると、そのアレルゲンが頭に入っていないと、自分だけでそのアレルゲンを把握することは困難です。こんな時に、昔のエピソードの知識が生きてきます。体調や調理の方法量など、どの程度までなら許容できるのか、その後どの程度ダメージが残るのかが判かれば、気を付ける方法が見つかります。先の昔話は、その貴重なヒントになります。どのような人付き合い方が無難か、症状の有無ばかりではなく、それも含めた自分のライフスタイルを築き上げる、格好の準備(練習)材料にできると思います。
 
 三つ目は、お子さんにプラス思考を植え付けることです。アレルギーの子は、劣等感を持ちがちです。しかし、アレルギー性格というのがあるのではないかと思える程、好きなものには集中力を発揮します。何でも良いから興味と自信を持てることを伸ばしてやりましょう。楽しく体を動かすことを見付けられれば、更に望ましいことです。体を動かすことで、糖分を熱エネルギーに変えれば、大きなトラブルを解消することにつながります。しかし、競い合うよりも協同で何かを作り上げたり成し遂げることが良いですね。少し頑張って動くとたくさん喜ばれ感謝されることは身の回りにはありませんか?ボランティア的な活動まで的を広げれば、少し欲張り過ぎになるでしょうか? とにかく、長続きできることを一番大切にして欲しいと思います。
 
 四つ目は、小学生のうちに、基本的な料理方法をマスターしておくことです。食物アレルギーの対策の主体は、食事療法です。ここが非常に大切なポイントなのですが、楽しくなければ、台所になど二度と立つもんかと思うでしょう。
 最初は、遊び気分で楽しく、次に、周囲から感謝をこめた褒め言葉をたくさん集めます。自信につなげて下さい。最終的には、料理することが苦にならない所までもっていければ最高です。将来、自分に合った食事を自由自在に作れれば、どこに行っても心配なしです。中学になると、部活や勉強が忙しくなるようです。(お付き合いもかな?)小学生のうちに馴れておき、中学高校では短い時間で料理もこなせるようになれば言うことなしです。
 しかし、この方法で注意しなければならない問題点もあります。場合に因っては、必要以上に思い込みや先入観を与えかねないことです。楽観的なお子さんの場合、少しブレーキになって良いでしょう。少し食べたくらいでは反応しなくなったり、たくさん食べても軽い症状しか出なくなると、油断してついつい日常的に食べるようになってしまいます。ところが、このような時にアナフィラキシーのような重篤なアレルギーを起こしやすいことが指摘されています。逆に、悲観的なお子さんでは、慎重すぎて行動範囲が極端に狭くなることがあります。この様な場合には、常にプラス思考に導く必要があります。いずれにせよ以前合わなかった物については、体調の良い時を見計らってイベント的に試すという気持ちでいるのが無難でしょう。
 
※医療機関の利用について
 アナフィラキシー、気管支喘息発作のように重症化すると、生命の危険を伴う場合がありますので、救急時に治療していただける近所の医療機関は必要です。また、夜間にトラブルが起きた場合にも、医師がカルテなどから処置に必要な情報が入手できるシステムがあり、入院や集中治療を受けられる医療機関とのつながりがあれば、より安心です。
 残念ながら、私のクリニックはこのような体制がありません。風邪などで受診される時に、アレルギーの状況などを書いたメモを医師にお渡しするなどして事前に把握して頂くと大きな助けになります。近くの信頼できる医師とのコミュニケーションを取って置いて下さい。
 
※アレルギーから何を学び、目標をどこに置くか?
 最終的には、どんな食べ物をどんな状況で、どの程度までに留めて置くのが無難かを認識し、自分自身のライフスタイルを設計できるようにすることも目標の一つです。合わない物が、体全体に負担をかける場合も少なくありません。完全に症状が出なくなるより、少し度を越した時モニターとして軽い症状が出るくらいの方が、健康を維持しやすいように思います。
 私は、自分自身の体の状態を教えてくれるのですから、「アレルギーと友達になろう」と患者さんに言っています。症状が激しい時期には、そんなことを考える余裕などありませんが、軽快していく過程で必ず持っていただきたい気持ちです。さらにプラス思考を進めれば、自分の生き方やこれからの社会に必要なことを身をもって実感できるのですから、「アレルギーで良かったね」という言葉を素直に受け止めることができるのではないかと思います。と言いますのは、アレルギーには、慢性でより重篤な疾患への警鐘という、社会的な側面があります。もう少し踏み込んで言えば、アレルギーで起きた事実を自分だけのこととは考えず、改善が必要な点について気付いたことから社会に向かって積極的にアピールすることも大切です。