「ゆきひかり」と米アレルギー
             米アレルギー研究会(会長:後木建一) 文責:長谷川 浩
 
 「何故「ゆきひかり」が良いのか?」というご質問を多方面から頂きましたので、これまでの研究成果をお話します。しかし、まだ不明の点が残っているため、多少イメージしやすいように補足と推論を加えてみます。ここでは臨床調査の結果を省きますから、詳しく知りたい方は米アレルギー研究会のホームページhttp://www.yukihikari.ne.jpをご覧下さい。
 
糖の摂り過ぎでも悪化する米アレルギー
 
 米アレルギーの症状は、ほとんどが湿疹で、アトピー性皮膚炎を悪化させる原因になります。
 アレルギーを起こす直接の原因をアレルゲンといいます(たとえば、卵アレルギーなら卵がアレルゲンです)が、アレルギーには他にも様々の要因が関係します。そして、どの因子がどのくらい影響するかは、人により、またアレルゲンによりそれぞれ違っています。
 米アレルギーを起こす重要な誘因として、砂糖、果糖、アルコールの摂り過ぎがあります。これらをエネルギーとして消費するためか、身体をたっぷり動かすと症状が軽くなります。しかも、米アレルギーの症状は湿疹がほとんどで、気付きやすいものですから、これは飽食と運動不足への警鐘なのかもしれません。
 また、米アレルギーは、アレルギーが重症化してから現れ、身体の状態が良いほうに向かうと最も早く治ります。出始めが遅くて早く治るのですから、米はアレルギーを起こしにくい食べ物、アレルギーから見ると、日本人に適した食べ物といえます。
 
米アレルギーの第一のタイプ---早くに症状が出て、タンパクが原因
 
 さて、米アレルギーには、少なくとも二つのタイプがあります。ひとつは、従来から研究されてきたタイプで、以下の特徴があります。
 
・合わない米を食べると、比較的早く(数時間以内)症状が現われる。
・アレルギーの一般的な血液検査が参考になる。(一般の病院でできる抗体検査です)
・アレルギーの原因物質(アレルゲン)が、米のタンパクであること。
   このタイプの研究は進んでいて、米タンパクの中でも、水や食塩水に溶ける塩可溶
  性タンパクが主な反応物質だとわかっています(他に、少数ですが、グルテリンなど
  貯蔵タンパクに反応する人もいます)。さらに、私達の研究で、この塩可溶性タンパ
  クの中でも反応性の強いものは米の表面に集中して存在することがわかりました。(推
  論ですが、このタンパクがイネを食い荒らす害虫に対し、防御物質として働いている
  可能性があります。そうであれば、米粒の表層に局在するのも納得できます)
・治療用には、低アレルゲン米(ファインライス、Aカット米など)が開発された。
   しかしこれらは、塩可溶性タンパクを減らすために、酵素や高圧洗浄など大がかり
  な処理をしていますので、たいへん高価です。そこで私達は、酒米用の精米機で玄米
  の表面を30%削った高度精白米を奨めています(一般の精米機で、ここまで削るこ
  とはできません)。患者さんによって有効性は異なりますが、だいたい低アレルゲン
  米と同等の効果があると考えています。
 
米アレルギー第二のタイプ---「ゆきひかり」が有効なのは、このタイプ
 
 これに対し、「ゆきひかり」で改善する米アレルギーは別のタイプです。まだ仮説の段階ですが、このタイプには以下の特徴があります。
 
・合わない米を食べて症状が現れるまでの時間が長い(日単位で、ほとんどが数日以上)。
   臨床的には、数日食べ続けることで症状が出てくるという印象です。
・検査では、皮膚テスト(パッチテスト)と特殊な血液検査(リンパ球幼若化試験)の二つが
 参考になりそう。
   これらはツベルクリン反応のように、反応が遅れて出る型のアレルギーを検査する
  方法です。このタイプでは、ひとつ目のタイプの時のように、一般の血液検査(抗体
  検査)は参考になりません。
   これまでの検査結果を見ると、まだ症例数は少ないものの、パッチテストでは品種
  による違いが出る傾向にあります。
・米の糖成分がアレルゲンになっているらしい(現在、研究中)。
   アレルゲンは、従来、タンパクだけに求められてきましたが、1992年に糖類のア
  レルゲンが報告されました。しかし、米アレルギーのアレルゲンに関する研究は、一
  般的には今もタンパクに留まっており、当初は私達もタンパクに関するアレルゲンの
  解析から始めました。
   その結果、臨床的には食味が良い品種のほうが米アレルギーを起こしやすいという
  ことがわかりましたが、アレルギーを起こしやすい米と起こしにくい米の品種間には、
  生化学的に見て、塩可溶性タンパクの質と量の双方とも違いがありませんでした。
   このため、タンパク以外の成分、特に、米の大部分を占める糖成分に着目して検査
  に組み込んでみたところ、こちらでも有望な結果が集まりつつあります。つまり、米
  の糖成分がアレルゲンになっている可能性が出てきたのです。
 
 以上をまとめると、米アレルギーには、米の糖質に反応し遅れて症状を現すタイプがあって、「ゆきひかり」は、この反応を起こす糖質系のアレルゲンが少ないと私達は推定しており、現在、研究を進めているところです。
 
コシヒカリの系譜はアレルギーを起こしやすい
 
 これに併行して品種の遺伝的特徴を検討しましたが、臨床的にアレルギーを起こしやすい米は、その系譜に「コシヒカリ」および「コシヒカリ」を用いて育成した品種が存在していました。逆に、アレルギーを起こしにくい米は、「コシヒカリ」を先祖に持たない粘りの少ない品種と酒造用品種でした。
 このことから推測すると、食味の良い米を開発してきた中で「ゆきひかり」くらいまでが許容範囲にあり、食味がそれ以上の品種では耐えられずアレルギーを起こす人が出てきたのではないかと思います。北海道では、「ゆきひかり」以前の時代に米アレルギーは希でした。ですから、「ゆきひかり」より前の品種なら、さらに良いかも知れません。
 しかし、アレルギーを出さずに、そこそこ美味しい米を食べたい気持ちも理解できます。そのような米を各地で見付けて頂きたいのですが、同時に、食味の追求に溺れず、同じ米を美味しく食べる方法も考えてください。たとえば、お腹を空かせて食べるとか、話をしながら一緒に楽しく食べるとかです。それから、噛めば噛むほど美味しくなる米はないでしょうか? そんな食べ方や米作りの工夫もお願いしたいものです。
 
米アレルギーに思うこと---温故知新と農への期待
 
 特定のアレルギーに良いといわれるものが、そのまま一般の人にも良いとは限りません。高度精白米にしても、昔から食べてきた自然な食品ではありません。日本人の食歴を考えれば、むしろ玄米が好ましい場合の方が多いのです。ですから、高度精白米は、アレルギーの悪循環を脱するための一時的な方便として捉えています。
 また、化学物質の使用や排出を抑えることも重要です。ディーゼル排気ガスや農薬が杉花粉症の引き金になるという研究があります。そこで私達も、米の表示や販売者の話を基に農薬の使用状況との関係も調べましたが、品種による違いのように明らかな差は出ませんでした。しかし、有機認証のように詳しく検証したわけではありませんので、今後、再調査も必要に思います。
 それから米アレルギーに直接関係しませんが、長谷川クリニックでは、コンビニのおにぎりを食べた後に湿疹や神経症状を出した患者さんが20例程度(お母さんが食べ母乳を通して症状が出た赤ちゃん、ご飯だけで具を食べなかったのに症状が出た人も、各3例)見られました。この症状は米アレルギーでの出方とは違いますので、食品添加物など米以外への反応が絡んでいそうです。食べ物についても、ある種の化学物質が本来の食べ物にまで有害反応を起こさせている可能性がありますので、今後の課題にしたいと思います。
 これまで、米を中心に身体の外の因子を問題にしてきました。しかし、むしろ、私達の体質自体が変わったために、日本人が縄文時代より親しんできた米にすら拒否反応が出てきたのかもしれません。ただ、この体質変化の元凶も、飽食美食や運動不足、化学物質の乱用にあるのではないかと思います。そうであれば、問題の主体が外にあれ内にあれ、必要な対策は同じです。
 このことは、米に限ったことではありません。他の食べ物でも水や空気の問題でも同様に考えるべきでしょう。歴史を振り返り、子供達の心身の健康を見据えて、私達の目標やライフスタイルを考え直す時が来ているのではないでしょうか? 米アレルギーの研究を通じてそんなことを考えています。
 
              米アレルギー研究会事務局=長谷川クリニック
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